サクラダリセット CAT, GHOST and REVOLUTION SUNDAY 感想

 超能力者が人口の半分を占めて、『管理局』に問題を起こさないように管理されている街・咲良田を舞台にしています。その街の住人であり、『管理局』に属する二人の高校生――記憶を恒常的に保持する能力を持つ浅井ケイと世界を三日分巻き戻す能力を持つ春埼美空とを視点人物とし、彼らは『猫を生き返らせる』ことを依頼されたのを発端に事件に巻き込まれて行くというのが大まかなストーリーです。
 

 まず設定の中心になっている能力ですが、でたらめなものではなく強度や発動条件があります。目の前の人物の能力の強度はどれぐらいか、条件とは何かを探って読み合いになり追い詰めて行く感じで派手さはありません。しかし相反するもの同士でどちらが自らの目的を達するかを読み合いの深さによって冷徹に峻別される様がきちりと書かれていて読ませます。その理詰めの能力戦は良く出来ていました。
 一例として作品内で早々と明かされるのでケイと美空の関係を書いてみます。ケイの記憶する能力の強度は極めて強く、時系列が前後しても保持される――つまり三日間巻き戻ってもその消失した三日間過ごした記憶は保持されます。美空の巻き戻す能力と極めて相性がいいのですが、美空の強力すぎる能力には枷が何重にもかけられていて神のごとき能力とはいきません。例えばケイが「リセット」と言わなければ美空は能力を発動出来なかったり、一度巻き戻すと24時間は発動出来なかったりetc。全ての能力に関してこういう相性が熟慮されていて、組み上げ方は巧みに思えるとしても、都合の良さは感じ取れませんでした。
 能力の使い方も上手かったです。ケイの能力により過去の事象とその時のケイの感情が再演され、同時に現在のケイの感情も浮かび上がってきます。この過去と現在との解離は過去が喪失に彩られているからこそ、実に切ないものとなっていました。また傍らにいる美空の視点からケイが繰り返される二度目の3日間を極力変えないように努めて動く様子と理由を描写することで、より彼らがリセットすることの意味と意義を強めていました。

 きっと自分以外に、そのことに気付く者はいないだろう、と春埼は思った。彼が日々、どういった努力をしているのかを、周りの人たちは知らない。
 リセットによる仕事は、常にそういった性質を持つ。何か悲しいことがあり、依頼を受けてリセットする。そして悲しいことが起こるよりも前に、問題を解決する。依頼主は自分が救われたことにも気付かない。当然だと思い込んで、幸せを受け入れる。もちろんケイに感謝する者などいない。
 ひどい話だ、と春埼は思う。音の届かない風鈴、見つけられなかった虹。そんな次元の話ではない。
 (P57-58)

 そして物語が進むにつれて少しだけ明らかになる2年前――ケイと美空が出会った時。彼らが互いに何を得て、何を喪い、何を求めたのか、そして何故今『管理局』に属しているのかがほのめかされ、猛烈に興味が引っ張られます。続きで詳細が語られるのを、また語られてケイがどう動くのかを読むのが待ち遠しい限りです。

 
 以上が設定から見た本書の感想で、まあ些細なことです。本書で何よりも重要なのは、春埼美空があまりにも可愛すぎることです。春埼美空が何を思って、どう動くのか詳しく説明されないのですが、それでも彼女の何もかもが伝わりすぎて辛いです。その辛さも可愛いがる要因なんですがね!
 美空を作者が称して曰く“シンプルでミステリアスな少女”。当にその通りで、言動を表面上おっただけでははっきりしているのかぼんやりとしているのか判りません。それもこれも彼女は解り易いルールで動くのですが、だからこそ時に余人にはわかりにくい行動をとっているということです。
 その一つのルールを簡単に言ってしまえば、ケイ至上主義な乙女回路。ケイの行動を妨げないように、ケイに褒められるように、ケイと仲良くなれるように、彼女の全てが費やされます。外から気まぐれに見えても、可愛らしく嫉妬しているんだし、デートに浮きだっています。――その愛らしさを知れ、と言いたいです。一節を引用しましょう。

「(前略)残念だけど、語尾に『にゃん』ってつけて喋ったりはしない」
「ケイはそういうのがいいんですか?」
「え? そういうのって?」
「語尾がにゃん」
「ああ、うん。可愛いと思うよ」
 もちろん冗談だったけど。
「今日はいい天気ですにゃん」
 真顔で言われてしまった。大ピンチだ。異様に恥ずかしい。
「ああ、ええと……」
「どうしたんですにゃん?」
 (P70-71)

 ああ、クーデレ少女ににゃん語尾で喋られたい!!!! もとい、薄々感じていても理性で理解しようとしないケイが憎い。まあ確かな理由があって判らないでもないのですが、その納得を横恋慕の憎さが駆逐します。
 兎にも角にも美空たんの一途な可愛さを知るためにも本書を読むべきです。
 そして――可愛さを知ったと思ってから、P114の14行目を読ましょう。私はその一言にこそ彼らの関係が全てがひっくり返る鍵があるんじゃないかと戦々恐々としています。


 絵は椎名優で質は高い上に抜群に作品に合っています。挿絵の配置もセンス良く工夫されていて、文章と合わせて良質なパッケージングになっていると思います。


 以上。色々な意味でお薦めです。

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