紅殻町博物誌 感想

 前作「霞外籠逗留記」は旅籠が舞台ですが、今回は広がって紅殻町という町が舞台になっています。前作での旅籠は奇妙な部屋がわんさかあり、水路が間を通り、そこかしこで幻の声がするという魅力溢れる建造物として書かれていました。紅殻町はそこまで派手ではありませんが、工夫を凝らして創られています。
 6つの区画からなる総称を紅殻町と言い、行政上は地図にありません。紅い格子など家の色調は紅が多く、家々は入り組んでいます。冬に雪が多い山部の特徴として家々に渡り廊下が通り、行き来出来るようになっています。後はお約束的に秘密の地下廊下があったりします。基本的には幻想的なのですが、実は考えて推測する余地があり練られています。
 そうした町への導入は見事でした。主人公の智久は失踪した叔父の奇妙な手記に誘われて、幼い頃に住んでいた町――紅殻町に帰ってくるという冒頭なのですが、まず決められた道行でしか行けない奇妙さを持ってきて閉鎖性を出し、紅の多い景色を背にして町の大まかの説明がされる内に昼から夕に移行していきます。当然ながら紅に夕の紅が重なり、それが強い既知感/郷愁を持たらします。そして紅に浮かび上がる懐かしい女性。彼女には昔懐いていて、となり――そこでもう既に町に引き込まれています。色彩豊かに移行して行く様が漢字と古めかしい大仰な言い回しが過多な文章により描写されるため、現実とはかけ離れた風情のある場所だとより説得力が増していました。 


 引き込まれたが最後、智久が探す珍奇物品をめぐる物語に翻弄されることになります。見る人によっては青く光る紅を筆頭に正しい方角を指さないコンパス、とてつもないエネルギーを持つ『万能星片』、眼鏡型の小型電子装置である『携帯式キネマハウス』、他にも『蝙蝠硝子』や『星屑唇膏』といったガジェット群です。名前を聞くだけでも心おどるじゃないですか。加えてそれに纏わる奇妙な物語とくればもう堪りません。
 更にキーワードはFUTURE RETROということで、上記のガジェットは元より、田舎町の寂れた資料館や映画館、秘宝館やB級冒険小説のノリなど懐古趣味が満載です。好き者はもう全てを歓喜して受け入れるしかありません。
 なお、このFUTURE RETROが顕著というか象徴として書かれたシーンが冒頭でした。明治の初め工業の興隆する時代に工場で「Le tour du monde en quatre-vingt jours」を読んでいて、そこから移動形式ががらりが変わるだろうという華美な未来の予測が紡がれます。単体でもあまりにも眩しいレトロな未来予測に感動するのですが、グランドフィナーレ的な十湖ルートラストと比べるとテーマが結実した綺麗な対比となっていました(詳しくは興醒めになるため言いませんが“物語”がもう一つのテーマになっていて、テーマの詰め込み方が上手過ぎです)。


 そこかしこで披露される薀蓄は楽しかったです。元ネタは気になったものだけですが、関連するURLなどをつぶやいていますので気になられたら御覧下さい。


 ヒロインは4名。物静かなものの薄ら暗い怖さをもつ白子、几帳面で探究心が有り虫を探しているエミリア、熟れた未亡人の松実、豪放磊落な自称探検家で獣性を持つ十湖。一癖も二癖もあるヒロイン揃いです。共通点として、どのヒロインも感情を露わにした際の触れが大きいです。怒り、照れ、慕情、絶望、性的な興奮などのめりはりが激しく、本作の特徴の一つとなっているように感じました。
 章構成はヒロインごとに一つの珍奇物品にまつわる短編として1章が割り振られ、最後で分岐するというオーソドックスなものになっています。個別のストーリー自体はそこまで突飛ではないのですが、上記のガジェットを使った幻想小説風の展開が絡んでくるため、弛緩せずに最後まで読むことが出来ました。
 最後の選択肢は上から順に選ぶことをお薦めします。展開は同じなのですが些細な差があり、その差によってヒロインの性格がなおいっそう理解できるようになっています。そうしてヒロインごとを理解していき、翻っては主人公を理解し、ひいては物語を理解すると繋がっているように取りました。


 エロは濃厚です。蕩ける肉体を隠す所なく克明に描写しますし、肉体を晒し合う関係になった二人の溶けていく感情をねちっこく熱い言動を通して描写します。恋人同士が行う情事或いは睦事という言葉がぴったりで、本作に不可分のものとなっています。
 感心したのは細部の工夫で、1発目は情欲に翻弄されたノーマルなものなのですが、2発目は端的に言えば――常識外れでした。足コキ、69、もう一つの穴etcといったよくある行為が過程の歪みによって目新しく読めました。主人公とヒロインとのやり取りも丁々発止でエロに至る盛り上がりもあって爆笑しました。


 文章は散々言ってきましたが癖があります。ただ前作と比べると、題材もあるでしょうがわざとらしさが小慣れてきて読み易くなってきた感があります。それでも合う合わないはあるでしょうから、体験版をプレイして判断してみてください。


 以上。幻想小説/冒険小説好きとしては文句なしに面白かったです。OHP見て少しでもぴんとくるものがある方には迷わずお薦めです。

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posted with amazlet at 09.12.27
raiLsoft(レイルソフト) (2009-07-24)