とあるエロゲ雑誌の懐古

 名前は『Aria vol.1』。出版はFOX出版で、発行日は2001年9月。Airの出た1年後であり、私がリアルタイムで知らない熱い時代に出されています。
 
 煽り文句は“シナリオ重視の新感覚18禁ゲーム情報誌、ここに登場! 本誌でしか読めない、話題の新作ゲームの外伝小説が満載!!”。エロゲの外伝小説を多く載せようというコンセプトはあまりにも魅力的であり、webでの外伝ノベルが発達した今現在でさえ有効な企画なんじゃないかと錯覚しています(シナリオライタ信者からすれば。


 内容は煽り文句通り、外伝的な短編小説がほとんどになっています。主要な題名と筆者を上げてみると、

 二重影どっとはらい』(SCA-自)
 雨やどり『旅立ち』(おるごぉる)
 ALMA『夏の始まり』(魁)
 女神さま☆にお願いっ!!『女神さまのお願いっ!』(嵩夜あや

 後は『傷モノの学園』などなどで、時代を感じさせます。またプラスしてオリジナル短編と同人ゲーム紹介があります。殆どの作品が発売前と言うことで、イントロ程度の内容なのですが、読ませるものとなっています。


 そして最大の目玉は巻頭特集にあります。

 1.ケロQ爆戦区
 2.久弥直樹氏特別インタビュー
 3.涼元悠一氏 今こそ『AIR』を語ろう

 これらの特集はどれもが読みふけってしまう興味深いインタビューとなっています。
 ただし久弥直樹氏と涼元悠一氏のインタビューはKanonAirを作ったKeyの裏側をシナリオライタ側から知りたいと言う欲求に答えるもので、語り口によって面白いもののそこまで目新しいものではありません。


 個人的に最も感銘を受けたのはSCA-自のインタビューです。全編引用したい語句に散りばめられています。一部を引くと、ケロQを立ち上げたばかりの頃を振り返り、

 そのころになると、僕なりにゲームを作るというモチベーションもかなり高いものになってましたので、絶対に成功させてやるとか考えていました。マンガでもなく小説でもなくゲームでしか表現出来ないようなアイディアが出てきてましたから、それが是非作りたい、作るまでは会社を維持しようと

 と述べています。そのアイディアの質には自信を持ちながら金と人材と自分の経験が必要だからまだ出来ないと断っています。
 アイディアの名前は「非連続存在」。
 それが形を変えてどうなったのかは、恐らく私たちはもう知っているんじゃないでしょうかね。


 他にもSCA-自さんが初期に考えた企画『名称未設定』に言及されていて、ちらっとどういうものか説明されています。あまりにもSCA-自さんらしいそれに、日の目に浴びる日が来るのが待ち遠しいことこの上ありません。
 『終ノ空』に関しても多々触れられています。『終ノ空』は出来が悪いが重要な作品、『二重影』は出来が良い作品などと比較し、『終ノ空』で目指したのは、

 「目に見えるものと、目に見えないもの」、「在りうるものと、在りえないもの」、「存在と非存在」とか、そういったものの表現はかなり意欲的にやっています。(中略)
 それと同じ事を今できるかと聞かれたら、「さぁ」といった感じですね(笑)。

 と語っています。またオチがないという批判に反論して、

 ラスト付近はもう正しい哲学の解釈なんて全然無視して突っ走ってますけど、だからオチが無いと言われるのも少しつらいものがあります。でないと彩名が「なんだっていえるじゃない」って台詞の意味がなくなってしまうし。その台詞を導き出すために長々とシナリオ書く意味こそが『終ノ空』という作品なのですから。

 と自作解釈をしています。改めて『終ノ空』の理解を整理するのに役立つ内容でした。
 また高校時代からどのような本を読んで哲学に入ったのかや、哲学と思想の違いや、大森荘蔵に関してや、投稿マンガ『孔子番長伝』に関してなどなど生い立ちに関しても盛り沢山語っています。
 

 裏事情があり2号にさえも続かなかったのが残念としか言いようがありません。今なお続いていたらと想像すると、シナリオライタ信者にとって幸せな未来がそこにあった気がしてなりません。


 以上。懐古厨にしてシナリオライタ信者の戯言でした。


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