片輪車と雪女 感想

 愛の無い行為をするから雪女と呼ばれたデリヘル嬢。深雪。
 見られたくないのが高じて片輪車を自称する車椅子の少女、麻子。
 麻子が深雪を呼んだ時に、彼女たちの物語が始まる――


 という感じの冒頭に引き込まれ一気呵成にプレイしました。最中は心震えて止まりませんでした。
 同性愛と異性愛、障害者と健常者、介護と性――題材にされている問題に正解などという便利なものはありません。割り切れないのが人の心です。しかし誠実に生きていくからにはその場その場で答えを決めて、そのように行動していかなくてはなりません。耐えきれないかもしれない傷と、痛みを伴って。
 本作は数多ある答えの一つで、あるように生きることへの厳しさと、幸福とが描写されていました。当然ながら無意味に辛気臭かったり、説教臭かったりはせず、形式として先行するのはエンターテイメント作品としてであり、後述しますが楽しめるようになっていました。

 
 それでは題材ごとに簡単に触れて行きます。
 まず女性同性愛者、ビアンの立ち位置はきちんと書かれていた、と思います。詳しくはないので断言は出来ませんが、読んでいて違和感はありませんでした。ビアンに纏わる問題も触れられますし、ストーリーを動かす要因ともなっているのですが、一番惹かれたのはビアンである女性たちの生きている情愛です。好きになり、触れ合う――そこにわざとらしい官能は無用で、彼女たちの幸いがありました。
 彼女たちが心に体に傷を、本当は負わないようにならなければならない傷を負いながら下す選択は常に正しいでしょう。それが理解てもらおうと歩み寄ることでも、立ち向かうことでも、忌避でも、逃避でも、後から振り返って悔いるものだとしても、常に。その瞬間の彼女たちの感情が正しいのだと、そう受け取れるように書かれていたと思います。
 描写はどちらに触れても巧みで、理解される高揚と、私とあなたの他の何もかもを拒否する完成された閉塞感とが胸に迫ってきました。

 
 健常者と障害者に関して。障害者の嫌うこと、健常者のしてはならないこと、どのように付き合っていくのか、怖気付かずに、容赦なく書かれていました。
 また体だけは健常な者の異常が心に痛かったです。素人動画と児童虐待とが絡まった今的な不快が書かれるのですが、流石に正視し難かったです。入れなくてはならなかった意義は判りますが。
 

 介護と性に関しては勉強した範囲から抜け出ないように見受けられるものの、逃げずに描写されていました。特に最後の障害者とのエピソードはいっとう素晴らしかったです。


 上記の題材=割り切れないものを割り切ったのは本サークル十八番の“妖怪”です。出てくるのは題名にあるように片輪車と雪女と、あと火車七福神など幾つか。今までの作品で見られた綱渡りで論理が繋がる美しさは健在でした。障害者と健常者、異性愛と同性愛というそれぞれの摩擦が妖怪の論理で紐解かれ、ある種の癒しとして作用していました。
 それに妖怪という比喩/物語が現実で展開される人の言動/物語とクロスする際の処理の仕方が上手かったです。特にクライマックスである人物の行動と姿とがある妖怪に似てしまうシーンがあるのですが、現実の登場人物と比喩される妖怪とがぴったりと重なる絵の説得力を補助として、完璧な構図が具現化していて、ぞくぞく興奮しました。
 難しい現実の事を逃げずに書きながら重苦しくならずにエンターテイメントとしてとどまったのは、こうした“妖怪”という理解の仕方があったからこそだと思います。少なくとも私はその工夫によって読み進むことが出来ました。


 文章は伝えられない感情の伝え方が上手くなっている印象を受けました。変容している最中なのかもしれません。 
 絵はパッケ絵からやや懸念していましたが、プレイしてみるとこれ以外ないという具合にマッチしていました。特に上でも触れた妖怪が現実と交差するとあるシーンは白眉でした。この絵でしか描けなかった、と言って良いかもしれません。
 音楽は全て素晴らしかったです。主題歌は静かで好みです。 


 システムはadobe airを使用していて、ウィンドウズ・マック・リナックスなどどのOSでもプレイ出来るそうです。


 以上。ごちゃごちゃ言ってきましたが、この作品の良さを伝えられた自信がありません。とにかく素晴らしい作品なので是非プレイしてみてください。
 さて、今までの作品からあらゆる面で深まっていて、安寧にとどまらない歩みを見せていただきました。今後の更なる発展が楽しみです。次回作も期待しています。

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 人形城奇譚
 片輪車と雪女 公式サイト