2014オールタイム・ベストSFアンケート募集!
というのを早川書房がされているのでたらたらと考えてみました。項目は以下
1、国内長篇ベスト5
2、国内短篇ベスト5
3、国内作家ベスト5
4、海外長篇ベスト5
5、海外短篇ベスト5
6、海外作家ベスト5
この中で長編ベストは国内外ともにパスしました。おすすめSF小説15選 - ここにいないのは、私家版SF十大小説|エンタメ系で逝こう!pub99の50冊 - ここにいないのはなどなどのリストから大きく変わりはありません。その中から気分によって選ぶのが変動するぐらいなので、個人的に今更感があり、面白味がありません。というわけで、短編ベストと作家ベストを選んでみました。
個人的な縛りは1作家1作品ぐらい。沢山あって選べない時には年代が偏らないようにしてみました。
- 国内短篇ベスト5
1.ラギッドガール(飛浩隆)
2.神への長い道(小松左京)
3.黄昏郷(野阿梓)
4.地獄八景(山野浩一)
5.Boy's Surface(円城塔)
あれ、意外と選べない、というのが正直な感想。これを選べば安パイというレベルでさえ、上位2つぐらい。古いタイプのSFが好きなので今のものについていけていないだけかもしれませんが。
1.ラギッドガール
今更褒めるのもなんなんですが、SF史上有数の怪物がここにいます。
2.神への長い道
人類と宇宙の進化を真正面から扱ったド直球の文系SF。間違いなく傑作ですが、今照れずに新しいものとしてこれをやるのはすっごい難しいと思いますね。
3.黄昏郷
所は虚数海の國、夢を犯す病が流行り、遂には王が倒れ、夢への反抗が始まる。片身を亡くした竜は己の毒に苛まれながら消えない虹を作り、王は海の底で泣き、魔女は誘い、一心不乱の戦争が始まる。
……華やかな文章、艶やかな描写、煌びやかな御噺――瑕疵は無く、言うこと無し。中二とか耽美とかビョーキが嵩じて極致に至っています。ワンダフル!
4.地獄八景
束縛するものがない死後のセカイ/地獄で、タンパク質と生存の意識によりコード/縛られた幽霊が跋扈する。セラピーと裁判という機智に富んだ地獄巡りから、優雅な結末まで全てが豊潤。SFらしくないのに、どうみてもワンダーのセンスの塊でした。
5.Boy's Surfac
円城塔の短編ではこれが一番好きという意味合いでこれを選びました。『天蓋』――文章による数式によって構築される風景が大好きです。
- 国内作家ベスト5
これはさらっと出ました。変わるなら、5番目が山本弘か林譲二になるぐらいですかね。
1.小松左京
人間喜劇から宇宙喜劇まで書ききった巨人。大好きです。一冊上げるなら矢張り『果しなき流れの果に』でしょう。ノックアウトされた口です。
2.飛浩隆
醜く美しい生粋のSF小説を書きます。残念なことに選ぶほど本が出ていませんが、あえて言えば『グラン・ヴァカンス』ですかね。導入には最適だと思います。
3.山田正紀
あそことそこを並べ、これとそれを繋げるのか!というホラの吹き方というか、風呂敷の広げ様が常人とは違います。甘めに考えても上手く畳めていることの方が少ないのですが、極まった時には馬鹿みたいな傑作となりますし、決まらなくても愛すべきバカ作品となります。SFは魅力的な絵を語ることだと言えば、この人の話の展開はSF以外に形容しようがないのではないでしょうか。一冊に絞るのは難しいですが、好きな作品としては『神獣聖戦』を第一に上げたいです。
4.神林長平
認識の理解、認識の伝達、認識の変容を言語化しようとするのが特徴。その結果として出来上がった作品は認識の多彩さを表すかのように千差万別です。
5.瀬名秀明
問題意識が強すぎるきらいがあるものの、小説をお話としてきちんと面白くしようとする努力を決しておろそかにせず、SFの題材の小説への消化具合も上手いです。結果として無類に面白いSF小説を生み出すことになっています。上げた『八月の博物館』は小学生の夏休みをSFにした大傑作です。
- 海外短篇ベスト5
1.海を失った男(シオドア・スタージョン)
2.しあわせの理由(グレッグ・イーガン)
3.月の蛾(ジャック・ヴァンス)
4.冷たい方程式(トム・ゴドウィン)
5.主任設計者(アンディ・ダンカン)
5個に絞れるかっと血を吐きたくなりました。ティプトリーもシマックもクラークもスミス(当然コードウェイナー)もディックもの傑作群を選んでいません。スタージョンも5個ぐらいは他のを選べますし、イーガンも言うまでもなく、ヴァンスも当然です。最低5回ぐらいはローテ行けますよ、ええ。云々と唸りながら頑張って、今の気分で選んだのが上記になります。明日には変わっても何にもおかしくはありません。
1.海を失った男
与圧服を着て頭と左腕以外を砂浜に埋めた男、模型を手に何度も彼に話しかける少年たち、そして空に浮かぶ奇妙な人工衛星。――いやあ先ずは絵として完璧。そして“聞いてくれ”と幾たびも復唱されながら、すれ違って語られる『きみ』と男の心象。二つが重なり、きちんとした像を浮かべた時の感動は上手く言い表せません。
2.しあわせの理由
主眼の自分の精神のパラメータをいじられるようになるフラットな世界の描写だけではなく、そうなるまでの過程での非人間的な人間の在り方が実に素晴らしい。心に残った一文は「自分の運命を悔やむことが、物理的に不可能だったのだ」。これこそがこの短編を表していると膝を打ちました。
3.月の蛾
楽器と歌でコミュニケーションを取り、人前に出るには仮面を被らないといけない異星に新人領事が赴任した――。複数の楽器と演奏を使い分ける複雑さが完成している為に、使い分けられずにコミュニケーションが成立しない悲喜劇が際立っていました。異星描写はヴァイスなので当然素晴らしく、異星間の断絶した交流具合の描きぶりも見事です。
4.冷たい方程式
『6人の熱病者を救うワクチンをのせた宇宙船に密航者がいた。余剰を運ぶ燃料は無く、捨てるものを選ぶ時間は迫っていた』。
小説単体として評価するとやや厳しくなりますが、コンセプトを含めた作品の価値を含めればSF史上有数と言っていいですし、シチュエーションに絞っている潔さもSF短編としてまた良しです。
5.主任設計者
コロリョフというロケット設計者が、エンジニアとして生まれて計算尺とペンという頭脳のみを空へ向かわせた軌跡を物語るものでした。技術者のロマンチシズムの塊であり、それを貫き通す姿はあまりにも魅力的でした。大きな物語はないものの、地味に傑作です。
- 海外作家ベスト5
1.スタニスワフ・レム
2.ジェイムズ・ティプトリー・Jr.
3.A・C・クラーク
4.クリフォード・D・シマック
5.ジャック・ヴァンス
5人に絞れるかっと(以下略。
1.スタニスワフ・レム
SFってそこまで考えなくてはならないのかという、SFの一つの極北。『天の声』以上のSFを知りません。
2.ジェイムズ・ティプトリー・Jr.
冴えわたった技巧により多彩な作品を書いています。明るいスペオペからドス暗いブラックなものまでなんでもござれ。『今ここにいる人間が嫌い』だから、そうではないものを書くためにSFとなるしかなかったような作品群の気がしています。
3.A・C・クラーク
SF少年の夢の結晶。根っこに人間を信じた楽観的な考えがあるのは嫌いになれません。甲乙つけがたい作品群ですが、『宇宙のランデヴー』の未知を探検するわくわく感が素晴らしかったので、これを第一に選んでみます。
4.クリフォード・D・シマック
田園で暮らせるか暮らせないかが、進化と技術の評価の尺度になる作品ばかりです。独特ですが、仰々しさと騒々しさからかけ離れた作風は大層好みです。長編では『都市』と『中継ステーション』が有名でしょう。個人的には後者の素朴さの方が好きですね。
異世界描写をさせたら右に出る者がいないと思います。この短編集以外に手に入りにくいのですが、この短編集だけ読めばOKという話も。
