『スワロウテイル』シリーズ 雑感

 感染すると若返り遂には死に至る〈種のアポトーシス〉が蔓延しつつある未来、日本では感染した男女は隔離されて東京人工島に住んでいた。人々は異性の代替として疑似生命〈人工妖精〉をパートナーとしていたが、人間を害さないように5原則が組み込まれているはずの〈人工妖精〉による殺人事件が起きてしまった。道を外れた〈人工妖精〉を処分する青色機関に属する揚羽が事件を追う――

 という感じのSF小説シリーズ。
 基本的には中編としてまとめられており、おおよそのノリはSFミステリ×必殺仕事人です。
 〈人工妖精〉は5原則という枷を付けられ、本来なら人間を殺害出来ません。

【人工妖精の5原則】
 第一原則 人工知性は、人間に危害を加えてはならない。
 第二原則 人工知性は、可能な限り人間の希望に応じなくてはならない。
 第三原則 人工知性は、可能な限り自分の存在を保持しなくてはならない。
 第四原則 (制作者の任意)
 第五原則 第四原則を他者に知られてはならない。

 ホワイダニット――いかにしてこの原理が狂ったのか。
 ハウダニット――異常な死体を残すようなその〈人工妖精〉ならではの特殊能力は何なのか。
 動機も方法も見抜き、狂った〈人工妖精〉と対峙して裁いていくことになります。
 異常ではあるけれども論理が通った事件の数々は、その論理を見通した時の爽快感とそうあるようになった社会と未来への暗鬱さを同時に味わえることがほとんどで、これぞSFミステリという真髄が宿っていました。

 そこに良くも悪くも趣味的な要素が大いに詰め込まれていたからこそ、エンターテイメント作品としてバランスを欠きながらも魅力があって心に残る作品群になっていたと思います。

 趣味的な要素の一つが、熟語の開きや宣言と言った所謂中二的に近い格好つけ。

 人の工みし妖かしく精あるもの――人工妖精。
  (籘真千歳.スワロウテイル人工少女販売処(p.13))

 自ずから然らずば、致すところは死なり。
 青色機関は人工妖精産業における自動免役だ。
  (籘真千歳.スワロウテイル人工少女販売処(p.69))

 あるいは犯人を突き止めて、最後の最後で戦う際に大見えを切る決め台詞。

 生体型自律機械の民間自浄駆逐免疫機構青色機関は、あなたを悪性変異と断定し、人類、人工妖精間の相互不和はこれを未然に防ぐため、今より切除を開始します。執刀は末梢抗体襲名、詩藤之峨東晒井ヶ揚羽。お気構えは待てません。目下、お看取りを致しますゆえ、自ずから然らずば結びて果てられよ!
 (籘真千歳.スワロウテイル人工少女販売処(p.299))

 取り出すとあれに思うところもなくはないのですが、決めるところでこういった文章がぽんっと出されるとこれが本当に癖になるんですよ。

 次第に量が増え、小説のバランスに対して緊張感を孕む様になったのが哲学への言及と思想。
 本シリーズの〈人工妖精〉の設定と異常と是正を書くからには、知性とは何かに触れることは避けられなかったのでしょう。
 それに小松左京は言うにおよばずSF小説としての思想は当然あります。
 3巻までは慎み深くバランスが取れていましたが、最終巻ではいやーちょっとニーチェ・カント・デカルトにかぶれすぎなのではという感じに紙面が割かれます。このシリーズを締めるにあたって書かなくてはならなかった――という熱量は感じるのですが、それをこの作品のテイストで読みたかったかと言われるとうーんいやーと言葉を濁してしまいます。
 でも記憶には残りましたね、うん・・・。 ほんと、綺麗に整形すればある程度長く続けられたでしょうが、込められた熱量に耐えきれなかった印象です。
 未読の方はぜひ読んでもらって、どんな評価を下すのか知りたいところ。

 なお個人的な一押しの巻は3巻の『スワロウテイル序章/人工処女受胎』。
 揚羽がまだ学生だった頃の前日譚であり、お嬢様育成としての側面を持つ看護学校を舞台としています。出てくる登場人物はほとんどが生年一桁の〈人工妖精〉です。
 つまりは――百合学園物×SFミステリ。
 そんなん大好物に決まってるじゃんという代物でした。趣味的なオールタイムベストを組むのであれば入れたくなるぐらいには偏愛しています。


 以上。『スワロウテイル序章/人工処女受胎』だけでもと言いたいところですが、出来れば1巻から読んでシリーズ全体の仕掛けを愉しんで欲しいですね。

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