タイムアウト 感想

 本作は晶文社から出版された『ヨット・クラブ』が改題されて出版されました。
 イーリイは以前に『観光旅行』だけ読んだのですが、幻想的で世俗的であまり近くない例えですがある種古川日出男に似た面白さを感じ取りましたので、イーリイという作家を気にしていました。その為今回の文庫化は嬉しい限りです。


 全編読んでみて、どの短編でも日常をずれさせる程度が絶妙という印象を受けました。例えば「理想の学校」の学校はある種の人に取っては望みどおりであり、学校がモラトリアムだとするならば正しくその通りの代物です。その設定は早い段階で割れるのですが、そこに普通の人がやって来てどのような反応を見せるかが更に見せ場になっていて奇想に引きずられていません。他の短編も同様に奇想と展開の釣り合いが巧みに取れていました。厳選されたセレブが集まるヨットクラブの壮大に馬鹿げた目的、神を自称する内気な中年男が思い付いた行動は、恐ろしい行為をした子どもが逃げ出した先にあったものはetc、どれもこれもが興味を引きつけられ、加えて流れが自然なためさらっと最後まで読ませられます。
 中でも表題作の「タイムアウト」は傑作でした。核ミサイルで消失したイギリスを秘密裏に復興させるプロジェクト“不死鳥計画”――だけでもぞくぞくするのに、歴史再現に関わった歴史学教授の密かな捏造の目論見と歴史の弾力性とが合いまって、皮肉で笑えて、それでいて考えさせられました。祈りのようなラストにおいて一人の人間が時間の流れに流されながらも生きた姿が描かれていて美しかったです。
 なお、他の短編の具体的な感想に付いてはで書いていたりいなかったりしますので、よろしくどーぞ。


 以上。奇想小説の短編小説集として面白かったです。

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