宮内悠介氏によるジャンル横断の短編小説集。
エッセイ風の小品が所々に挟まりながら、オルタナティブヒストリー物あり、曰く言い難い妙ちくりんな短編あり、お手の物の囲碁物のジュブナイルありとごった煮になっています。
この著者の持ち味をまとめる言葉を自分はもたないのですが、数ページの作品でもそれなりに長い作品でも作中人物の――あるいは作者の――私的でナイーブな感情の動きが読んで如実に伝わってきました。合う合わないはあるにせよ、いずれもこの作者ならではの文章による表現を読みたいという欲をかなえてもらえる内容でした。
自分がとりわけ好みだったのは『パニック――一九六五年のSNS』と表題作『国歌を作った男』で、いずれもオルタナティブヒストリー物です。
『パニック――一九六五年のSNS』は1965年に既にピーガーというSNSが流行っていた日本で開高健がジコセキニンと糾弾されるに至った謎を書いています。その謎そのものも興味深くて良いのですが、ピーガーのために――あるいはせいで――埴谷雄高の死靈の評価されるところに妙な部分が付け加わったり、三島由紀夫の運命ががらっと変わったりというにやっと出来る枝葉が好きでした。
『国歌を作った男』はヴィハーラというMMORPGを作り上げたジョン・アイヴァネンコの一生を書いています。彼が作り上げたゲーム――映像/音楽/世界創生――と彼の実際の人生の描写を通して、アメリカのある種の形を浮かび上がらせようとした試みは読む甲斐がありました。『ラウリ・クースクを探して』の原型とのことで、そちらの長編もいずれ読みたいと思っています。
以上。
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