黄雷のガクトゥーン:シャイニングナイト 感想

 結社から解放され平穏を得た海上園都マルセイユにとある観察者が忍び寄っていた。しかし気づく者は殆どおらず、皆それぞれの学園生活を送っていた――


 本編は去年の12月に発売された黄雷のガクトゥーンの約1年後を描いた続編になります。前作の主人公ニコラ・テスラを引き続きメインに置きつつ、様々なキャラクタ視点から語ることで、本編で語り切れなかったキャラクタ同士の関係と、その1年間の進展とが補完されています。イズミの人種設定はなんか生かされなかったなあとか、ヴォルターとベルタとがどうなるのかなあとか、気になっていた要素が拾われているあたり、続編としてかなり優秀です。それにシナリオライタが以下のように述べているように、ゲーム以外に出たスチームパンクシリーズの展開を追っていると、より一層シャイニングナイトの細かいところまで楽しめるあたり、世界観に惚れたファンへの心配りがされていました。

 こういう他の作品とのコラボのような仕掛けは解っている人がいなかったり世界観が狭いと作者の自己満足に終わってしまうこともありますが、桜井版スチームパンクには杞憂でしょう。どの作品も追っている身としては確かににやりとさせられ、問題なく機能していましたし、逆に書籍のほうを追ってない人にはこれから『ガクトゥーン・ノベルアンソロジー』や『灰燼のカルシェール』に手を伸ばそうという気にさせられるような出し方だったと思います。ここらへんも世界を広げる、お祭りのような続編としては正しいかと。
 ゲーム操作としては、マップでキャラクタを選択して4/26-5/1まで過ごします。5/1の夜が過ぎたら、またスタート画面に戻り、再び最初から4/26-5/1を反復することになります。こういうループ(本作では擬似的なものなのですが)は、FDとしてはよくあるタイプなのでADVをよくプレイしているのなら戸惑うことはないでしょう。そしてplayを"監視継続"と称され、選んだキャラの視点とはそのキャラが繰り広げる日常を観測する視点でもあるというのは最初から明示されています。何故反復して全てのキャラの視点を経験しなくてはならないのか、そして観測するのは何なのか――それが肝になるので、ネタ明かしは実際のプレイでのお楽しみということで。
 実のところイベント自体はそんなに多くありません。けれども同じイベントを複数の視点から見ることで、この時こう思っていたのか!と解るのがイベントとキャラクタの理解が深まるように作用しています。だからこそ反復は飽きないですし、短さとリソースの節約を成し遂げながらプレイを安っぽくさせないようにバランス良く調整していました。
 イベントは細かい枝はあるのですが、テスラ&ネオン、ヴァルター&ベルタ、エミリー&シャルル、ジョセフィン&エイミー、ナイチンゲール&ライヒ、イズミ&アルベール、JJ&アナベス&アンヌ、メイザースあたりがメインになりますかね。面白かった部分にのみ少し触れてみます。

  • テスラ&ネオン

 ネオンが若くて体の疼きを抑えられない欲求不満ある人妻系キャラとして見事に開花していました。
 テスラがソファに座っていれば折に触れて肩が引っ付く距離に座り、ネットしたり、編み物をしたりします。この肩が引っ付くだけで幸せで穏やかになるあたり、その慎み深さに非常に胸キュンでした。時々お風呂の中で欲求に身悶えするのも大層エロくて良し。他のカップルにも言えるのですが、若いんだから、性欲は大事ですねと。
 それにしても最後に、ネオンの性欲が爆発するのですが……。いやあ、若さと性欲と愛情とがはちきれんばかりに詰まった身体が躍動する、とんでもないエロさでした。

  • ヴァルター&ベルタ

 速度至上主義で情に疎いヴァルターと、サムライと自他ともに認め女性という性を抑制していたベルタとのカップルはとんでもなく嵌っていました。突っ走って殻をぶっ壊す少年と殻をガンガン壊される少女は微笑ましいものですし、大本に辿り着いて雁字搦めになっていた想いがほどけるあたりではよくやったと喝采しました。
 ただ喝采したのはいいものの、とどのつまりにはあんなにも恐ろしいバカップルとなるとは思いもせず。とどのつまり―ー思いが通じて性行為に移るのですが、互いに性知識に疎い者同士が互いへの愛情と欲望にまかせてむさぼり、むさぼられ、性行為に耽る様はまさにケダモノ同士。お見事なお点前でした。
 テスラ&ネオンの2人においてもそうというか、スチームパンクシリーズを通して、性行為描写が想いが通じ合うのを肉体で表現するものとなっており、読み甲斐があったのは大変素晴らしいと思いますね。あんあん喘いで10クリックで終わったり、人ならざる喘ぎ声を絶叫するのよりも、こういうのの方がエロティックと感じますし、性描写をあえて取り入れるADVとして理想の一つであると思いますね。

 素性がネタバレなので深くは突っ込めないのですが、個人的にガクトゥーンワールドの中では一番好きなキャラです。本編においてそう出番は多くありません。

メイザース】よく来たな。
       ネオン・スカラ。
       手伝ってやろうと思ってたんだが、
       どうにも忙しくてな。すまん。
        (黄雷のガクトゥーン 最終章(後編))

 ただ、上のように嘯き最後の最後に手を差し伸べた、差し伸べるために世界を手にした結社をも裏切ったその一瞬の恰好良さに惚れたのです。
 本作では本編で不明だったメイザースのキャラクタが存分に語られます。マルセイユに来る前どうしていたのか、どういう決意で育ちマルセイユに来たのか、マルセイユに来てどう思ったのか――重要な思いが3度あらわになります。

【ネオン】あたしの秘密、
     絶対、守ってくれる?
守ろう。守る。
二度目の言葉で少年は断言した。
       (黄雷のガクトゥーン:シャイニングナイト ロング・グッドバイ2)

役割を果たすとしよう。
そのために、学園都市を訪れたのだから。
       (黄雷のガクトゥーン:シャイニングナイト ロング・グッドバイ3)

 彼は一人、誰よりも早く人生を決め、大人になっていったのです。誰にも語らず、語れないまま。――それが束の間だとしても、偶々のように観測出来た幸いを嬉しいと思えた時点で、私にとって本作は特別なものになっていたのでしょう。

  • シャイニングナイト

 そしてオーラス。観測者が露わになり、雷の戦士に牙をむきます。どういう存在で、なぜ観測し、なぜ襲ってきたのか。それはただプレイした人だけが観測出来ることで。
 ぶっちゃければ、個人的にはややあっけなかったかなーとは思います。戦闘描写は優劣が付けば一瞬で終わるのはシリーズを通してそうなのですが、窮地への陥りとその克服のスパンがあまりにも短すぎました。本当ならやられていたと言われても、そうですかーと。加えてこのシリーズでは戦闘そのものより、敵が敵となった経緯のほうが詳しく語られるのですが、ちょっと描写が少な過ぎであり、移入しにくかったです。もう少しねちっこくやっても良かったかなとは思います。
 あとはそうですね、観測に関しては『ディファレンス・エンジン』と比べるのが意図されているかもしれないのかなとか考えているんですが、情報が少ないので踏み込めないのが残念です。


 なおシャイニングナイト編に入る際にクリックでは意図した描写を飛ばすかもしれないのでオートプレイを推奨すると警告されます。戦闘エフェクトなどはそんなに大層なものではないのですし、余裕でクリックプレイしていたのですが、最後の最後で頭を抱えてしまいました。EDムービーがイベントとなっており、最後の文章が流れてから何気なくクリックすることで再生されぬまま飛んでしまいます。おまけにあるイベント再生でEDムービーと同じ内容を文字で読めるのですが、プレイから流れで入るのと比べるとちょっと冷めます。最後のあたりはクリックに気を付けるか、オートプレイをお勧め。

  • まとめ

 以上。面白かったです。本編プレイしたなら絶対プレイすべきでしょう。新作も期待しています。

  • Link

 OHP-Liar-soft HOME
 黄雷のガクトゥーン  雑感 - ここにいないのは