エンタングル:ガール 雑感

 ――この違和感を映画にできたら、あるいは美しい、世界の謎のひとつくらいは解き明かすことができる作品になるのではないだろうか。
  (P41)

 守凪了子が舞浜南高校の映画研究部に入部し映画を撮影する、4月5日から8月31日までのひと夏を描いた小説。

 まずAIやVRやドローンといったテクノロジが進んでより生活に溶け込んだ近未来での、理知的な学生生活描写がかなり巧みでした。
 レベルの高い生徒が集まる高校という設定の為、映画を共に作成する面子もまた皆基本スペックが高くそれぞれの固有の才を持っています。秀でている少女・少年が理性ある振る舞いをしながら学生生活を送るのですが、テクノロジの発達に誰もがある程度以上のレベルできちんとついていっており、言動に幼稚さを忍ばせず、浮世離れした突飛さも見せず、その上でいくら出来が良いといっても当然思春期特有の未熟さやコミュニケーションの困難さの理性では割り切れないものに悩み、ひっくるめて優れている若人たちが輝けるイマを謳歌するある種の理想像を見事に映し出していました。

 しかし、理想的に見える了子の学園生活に少しずつ違和感が積み重なっていきます。
 自覚でも、他覚でも。
 複数のドローンから撮影していたとは言え、映るはずがない角度からの映像があった謎。
 或いは空域100mを越えたらドローンが消失した謎。
 或いは一人称で語られる事象と関係が毎回変遷して生じる齟齬と粗。
 或いは――シズノという体が透けた少女に出会う、と。

 つまりは最初から宣言されている通り、本作はゼーガペインの小説です。
 語られているのは、リョーコの目から通したゼーガペインの世界となっています。
 こうして、途中で真実が明らかになり、最初に触れた青春には決定的な閉塞が生じます。
 少年少女の輝けるイマの先に用意されているべき未来、進学/留学/成人/大人/恋人――成長は用意されていません。
 では、全てが茶番で、色褪せるのでしょうか。

 ――そうではないと、本作は、リョーコは叫び、願う未来の形を叩きつけます。
 これぞ、SF青春小説にしか書けない、憧憬でした。
 そして、ゼーガペインでしか書けない、希望でした。
 
 この世界がいつにあたるのか――アニメを観ていれば途中で判り膝を打つことになりますし、アニメと本作の関係の切なさに想いを強く馳せることになります。
 この世界がどういう構造なのか新たに知った場合――アニメを未視聴であればキョウが主人公でゼーガペインを駆る本作を新鮮に楽しむことが羨ましいことに十二分以上に出来ます。

 出来の良いSF青春小説な上に、原作と相互補完になる素晴らしいノベライズなのですから、言うことなし。楽しませていただきました。

 最後に、表紙の絵がちょうキュート、とだけ言い残しておきましょう。


 以上。良いSF小説でした。
 作品との関係は異なりますが『ラーゼフォン時間調律師』も出来が良かったですし、SF作家による熱が入って原作アニメの幅を広げる小説はもっともっと企画されて欲しいですねー

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