パワーワードの尊い話が、ハッピーエンドで五本入り 1,2 雑感

 「パワーワードのラブコメが、ハッピーエンドで五本入り」に続く、電子書籍のみでの出版の短編集。それぞれ5本の短編と1本のボーナストラックが収録されています。
 前の感想で相方同士の生み出し方が巧みだと書いたのですが、相変わらずその手腕は健在。
 それぞれの短編で、豊饒なバックボーン下のきみとぼく/あなたとわたしが、多様に作り出されていました。
 説明しすぎない文章で話す焦点の合わせ方も見事で、何故その関係性になったのか――への興味を最後まで駆り立てられ物語を読む強烈な推進力となっていました。

 好きな短編を2本選べば(1)所収の「空と海を結ぶもの」、(2)所収の「禁書区画で待ってる」。

  • 「空と海を結ぶもの」

 そして私は彼女に会った。
 着水から全方位にレーダーを向けて警戒したが、現れたのは空ではない。
『海中か……!』
『驚いてくれると嬉しいわ』
 潜水艦だ。
  (川上稔短編集 パワーワード尊い話が、ハッピーエンドで五本入り(1)(電撃文庫)(Kindleの位置No.1741-1743))

 戦闘機が潜水艦に出会うボーイミーツガール。
 逢瀬の絵の妙、交わすデータの愛しさ、最高にキュートなオチ。大層好みの短編でした。

  • 「禁書区画で待ってる」

 国が東西で争いついには物理的に分断された戦争下、東側の図書館に住む幽霊の司書が守り通した禁書とは何か。
 そして分断されて会えなくなった彼からの思いが戦後、とうとう司書の元に辿りつく――

 分断――世界と、彼女と彼――の解消に幾重にも込められた想いに、おおいに感動させられました。思わずうるっとしてしまいましたね。


 以上。大長編も良いですが、1話完結・1巻完結の作品も今後もどしどし書いて欲しいですね―

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