死なない生徒殺人事件 感想

 主人公は教師として赴任した女学院で死なない少女の噂話を耳にし、その噂の主だと名乗る少女・識別組子と出会う。しかし識別は非常識な存在である証拠らしきものを示した翌日、首切り死体で発見された。それから女子高生連続殺人に巻き込まれる――。

 
 『死なない存在』というB級ガジェットを扱った本作は非常に意欲的な作品になっていました。


 メインの『死なない生徒は何故殺されたのか』『識別組子はどのように復活するのか』という謎も充分に魅力的なのですが、初っぱなの副次的な謎の設定が極めてキュートでした。それは死なないという非常識な存在だという証拠のことであり、疑う主人公を前に識別は黒板に何気なく向かって或る図形を描きます。

 識別が描いたのは・・・・・・図形。そう、とてもシンプルな図形だった。
 だが、その図形を見た瞬間、俺の頭の中に生まれて初めて味わう感覚が生じた。
 それは。
 四角形と五角形の中間の図形だった。(本文傍点)

 この"四角形と五角形の中間の図形"のなんとわくわくすることか!
 些細だがあり得ず常識と乖離するが、しかしぎりぎりのレベルでリアリティレベルを破壊しません。黒板の片隅にある既存の世界を破壊する印――非現実の設定の秘孔があるとすればそれをピンポイントの突くロマンのある代物ではないですか。


 そしてメインの真相は結構斬新です。そこそこの数のSFとミステリは読んでいますが、本作のような筋は見たことありませんでした。復活を防ぐために念入りに殺すという程度の動機なら読んだことがありますが、それを悠々と越えてとんでもないことをしていました。使われたトリックそのものは机上ですが、トリックを当てはめて事件を起こしたロジックが素晴らしい。法月倫太郎の『生首に聞いてみろ』後としてもお見事。突飛でトチ狂ってますが、犯人およびトリックが明らかになった上で明かされる識別の"死なない真相"が色褪せるぐらいに、死なない真相に近づくための事件の流れは綺麗でした。推理小説的にセーフかアウトかで言えばアウトですが、ジャンルオーバー小説としては正しい姿勢でしょう。

 
 惜しむらくはオチがはなはだしく微妙なことかと。どんでん返しが決まらず、納めきりませんでした。もやもやしたものを残す方法ではありますが、滑っています。どうも『2』が総集編として傑作とのことで、そこで上手く収束するのを期待します。


 以上。変格物として読んでみても良いかもレベルにお薦めです。

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