灰燼のカルシェール 感想

本書はライアーソフトスチームパンクシリーズのシナリオライタが書き下ろしたもので、Nitroplus Booksから本+CD形式で出版されました。
 そう、桜井版スチームパンクシリーズの一作であるのは間違い無いですが、正嫡では無く、本流から皆が随所で選択を誤り続けて至った、バッドエンドの物語となっています。


 ――異世界/≪カダス≫は遠く、
 ――正義/≪白い男≫は現れず、
 ――青空/≪隙間≫は裂けなかった。
 1904年、ローマ教皇により『灰色宣言』がなされた。史実なら――『太陽宣言』が行われる筈だった。
 1907年、空から時計≪大機関時計≫が降り注ぎ、世界が壊滅した。
 191X年、人類は一人になっていた。

 
 語られるのは、そんな終わった世界。瓦礫に溢れ、生き残りの人類を殺すために巨大な機械死人が闊歩する世界の終わりの中を、最後の一人の人間と機械の身体を持つ存在とが居場所を求めて彷徨っていきます。
 メインキャラクタは少女と少年であり、章構成で一つのイベントが一応の決着が付くという形になっているのは、今までのスチームパンクシリーズと同様です。章の盛り上がりで、優劣が付けば直ぐに決着する戦闘が繰り広げられるのもスチパンシリーズと同様でしょう。

「兵装開放<アルメメント>」

 の声と共に機械の武器を手にすれば苦戦はしません。ただし大事な物が失われていきますが。
 だから興味を持つのは、最後の最後で、少女と少年が目に見える形と目に見えない形で失うのは何か、それでも互いに残るのは何か――なのですが、ここで重要なのは失うことと得ることとは等価では無く、交換されたのでもないことだと思います。どちらも過程として必要でした。つまりはロードノベル。彼らがその道行きを行くことこそが主眼となり、表層上求めていた居場所そのものには重きは置きません。
 碩学に"ひとが“ここ”では終わらぬ理由"を求められたヴァルーシアのように、"『あらゆるものは意味を持たない』"という命題に反しなければならなかったソナーニルのように、過程を行く意義が外部との繋がりにならない、自閉した物にならざるを得ないのが、本作の厳しいところであり、あえて『世界の終わり』を舞台にしたことによる"2人の関係性の純化"という長所になっているのでしょう。
 他にも時計が降り注いだ地域は『物理法則が消える』とか、外連味のあるガジェットが盛り込まれ、そこでもスチパンらしさを味わえました。


 なお、巻末の灰燼のカルシェールの年表と、スチームパンクシリーズ年表とを比べるだけでも、結構楽しめます。ここでこう間違えたり、失敗したのかなーとか、バッドエンドに至った経緯の逆演算し出すと止まりません。これもしっかりと設定され、きちんと今まで作品を作り歴史を積み重ねてきたからこそ、作品内のオルタネイティブ・ヒストリーという二重のifを楽しめたのだと思いますね。なおスチームパンクシリーズ年表は今のところ『ジャイアニズム Vol.4 (エンターブレインムック)』が一番まとまっているんじゃないですかね。


 以上。面白かったです。桜井スチームパンクシリーズが好きなら言うまでも無いですが必読です。この作品から入るのは・・・・・・あまりお薦め出来ません。

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OHP-「灰燼のカルシェール」情報ページ(Liar-soft内)
   灰燼のカルシェール -What a beautiful sanctuary-|ニトロプラス Nitroplus