折れた竜骨 上・下 雑感

 1190年ブリテン島の東にあるソロン諸島の領主ローレント・エイルウィンは敵の襲来に備えて戦の準備を行っていた。そこに恐ろしい暗黒騎士が暗殺のため近づいているという警告を受け取る。しかし、その夜、エイルウィンは変わり果てた姿で発見されてしまう。
 暗黒騎士を狩る役を担う聖アンブロジウス病院兄弟団の一員・ファルクはエイルウィン殺しの犯人を追う――


 魔術が生きる中世欧州を舞台にした長編ミステリ。
 魔術にも確固たるルールがあり、謎を解くのに必要な情報が揃えば必然的かつ論理的に正しい答えが導きだされるというパズラーです。

『何も見落とさなければ真実は見出せる。理性と論理は魔術をも打ち破る。必ず。そう信じることだ』
   (折れた竜骨上(Kindleの位置No.1694-1695))

 まあでも本当に全てを見落とさないのは難しいし、見落とさなくても理解するのは難しいよね――と続くのですが、悪しき方法で人を殺める暗黒騎士を打ち斃す信念はそこから始まるということです。


 実はこの本作のルールを飲みこむのにちょっと時間がかかってしまいました。
 というのも魔術があるかなしかから悩んでしまったからです。
 パターンとして(1)記述通り魔術など超自然は存在する、(2)記述される魔術など超自然は認識上で本当は存在しない、のいずれかかな、と疑ったのです。
 素直にそういうルールなのだとノレば良かったのですが、中世欧州が舞台なのでちょっと無駄に考えてしまいノリおくれてしまいました。でもそれもまた論理遊戯のミステリの楽しみなので良し。

 
 あまり説明しても興を削ぐのでこれ以上細かくは言いませんが、要素要素の出し方と組み合わせ方は見事。
 なるほどこれなら解けうるというラインで展開される鮮やかな論理に感嘆出来ました。

 
 あとここで超にやにやしました。

「我々はときとして他人の秘密を曝きます。そのために魔術を使うことも少なくない。それは場合によっては、人の命を奪う暗殺騎士よりも害になりましょう。我々の使命を果たし、かつ自らを律するため、我々は真実を明らかにするにあたって一つの儀式を行います」
「儀式……」
「事件の関係者を集め、我々が何を知ったのか、何を知り得なかったのか、何を知った上で公言を控えているのかを明らかにするのです。その上で、今回であれば〈走狗〉が誰なのかを指摘する。どうかそれまでお待ちください。今日のうちに、全ては明らかになりましょう」
    (折れた竜骨下(Kindleの位置No.1817-1823))


 
 以上。上手く作られたミステリでした。

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