吉原御免状 雑感

 1657年のこと、宮本武蔵の弟子・松永誠一郎は遺言通り26歳で修行していた山を下り、吉原を訪れた。誠一郎はそこで徳川幕府の闇と、日本古来から歴史の裏に隠れ住んでいた民を知る。歴史を壊さんとする吉原の御免状を求める柳生との死闘を乗り越え、花魁の町で彼は何をさせられようというのか――
 
 作者の処女作。
 読む順番が逆となり、この作品内の重要な設定である影武者徳川家康と秀忠との生存闘争という歴史のifを膨らませた『影武者徳川家康』を先に読んでいました。あの大傑作のプロトタイプ的な作品を素直に楽しめるかなーと思って手に取ったのですが、勘違いしていたし舐めていました御免なさいという感じ。
 快男児・松永誠一郎が一人の男として立っていく様を見事に書き上げていました。
 吉原の夜の幕が上がる三味線の音『みせすががき』にふと涙した冒頭から始まり、あれやこれやという間に吉原の奥深くへと立ち入っていることになります。それを自由な言葉遣いと融通無碍な展開で書いており、実のところ統制が取れているとは言いにくいのですが、面白いという強さだけは貫いていくのは凄みがありました。
 この作者の作品の面白さは心の中に住む男――日本刀を自在に振るうつわものへの憧れと、現代日本ではもう復古しえない旧いマッチョさへの仄かな共感――の琴線に触れるところに大いにあるのですが、本作もそうでした。
 剣は無類に強く、情が深い。
 涼やかで、寂しげで、人好きがする。
 男が惚れ、女が惚れる。
 そういう男が、歴史や徳川幕府の闇にさえも負けずに作品全体から匂い立っていたのです。
 こういうのを読みたいと思って読み始めるので、もうめろめろになるのも致し方がないかと。合う合わないはかなり強そうですが・・・、まあ自分には滅法合ったということで。


 以上。なにはともあれ楽しめました。

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