その孤島の名は、虚 雑感

 10年おきに生徒たちが校舎ごと神隠しに遭うという吉祥寺南女子高等学校。今回は吹奏楽部に所属する24名の女子高生が謎の島へと飛ばされた。突如現れる牛や大蛇、そしてシルエットのヒトガタに襲われ、仲間が次第に減っていくことになる。彼女たちは島の謎を解き、元の世界へと帰れるのだろうか――
 
 という感じに始まる長編ミステリ。
 何の気なしに読み始めたのですが、驚嘆の一言。特殊設定下での本格ミステリは数多あるのですが、割と極北に位置するごりごりのパズラでした。
 人によって整合性の取れない地図・解く起点が存在しない暗号などで盛った見立ての人工性、登場人物をコマとして扱う手つき、ミステリ上の達成のためになにもかもが奉仕され、これぞと言わんばかりに極まっています。

 だってここ、イカレているけど不合理の世界じゃないもの。父も母もそれは確信していた。この島にはこの島の、合理的なルールがあると。だから、挑戦することをやめないかぎり、それが一年か三〇年か九〇年かは分からないけれど、必ず扉は開くわ。
 (古野まほろ.その孤島の名は、虚(角川文庫)(pp.213-214))

 そう、イカレているけど不合理ではなく、手がかりはすべて開示されており、考えれば真相に辿り着けてしまう律義さを含め、そのつくりは美しかった――と言っても過言ではないかもしれません。
 一度こっきりの体験なのであまり前知識なしで読むのが良いかと。


 以上。一読の甲斐がある作品でした。悪ふざけを面白がり、怒らない人にお薦めです。いやまああるいは怒るのは怒るので読書体験として一興ではありますかね。

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