アグレッサーズ 戦闘妖精・雪風 雑感

 戦闘妖精・雪風シリーズ4作目。

 これまで正体不明の異星の敵・ジャムとの戦争を書いてきました。しかし本当に奇妙な戦いであり、戦闘機が飛び交いミサイルで撃ち落とすわかりやすい戦場の裏で、執拗にあいまいな境が描写されてきました。
 ジャムにとって人間とは。――有機体である人間を最初はジャムは認識できなかったが、コンピュータの向こうに人間がおそらくは存在すると認識するようになった――と、人間たちは推測する。
 ひとにとってジャムとはなんなのか。――そう作られたために戦闘知性体にとっては敵であるが、人類にとって、そして個たる"わたし"にとってなんなのか、どう考えて、どう向き合うのか。
 認識・推測・表現の方法はなんなのか。人が表そうとしたらひとの言葉を使うけれども、ジャムのものはわからないし、そもそも人間が生み出した戦闘知性体もまたどう認識したうえでどんな方法を使うのか、まだわからない。
 戦おうとしても、分かり合おうとしても、思考方法と言語化――哲学が武器にも道具にもなる。新たな、まったく異なるそれを生み出せるだろうか、と。
 そんなこんなで、内容も内容を表現する文章も確固たるものが乏しいのですが、それでも<雪風>はジャムに敵対するものとして間違わないというのが楔になり続けてきました。

 しかし本作では<雪風>は仮想敵を演じるアグレッサー部隊に割り振られます。
 つまり、ジャムとしてふるまえ、と。
 人類の戦闘機が認識と観測でジャムへと容易にひっくり返ってしまう世界で、ジャムかのように振る舞おうとする時、何が起きるのか。
 とうとうというかようやくというか、物理的な戦いと認識の戦いとが一致した戦場が作り出され、その描写の素晴らしさもあって、読んでいて大いに盛り上がりました。
 その上で日本の女性エースパイロットを新キャラでぶちこんでくるわ、2作ほど張り詰め過ぎていた空気を緩ませる日常をいれるわ、戦闘とか惑星の描写をいつになく盛ってるわと、エンタメ的にテコ入れしてサービスもしてくれるわと、年月たってもシリーズはまだまだ熱いなとうれしい限りです。

 そうそうあと、本作は前作『アンブロークンアロー』の直接的な続きで、地球から<雪風>が帰還するのが前段階なのですが、ここまで複雑な戦闘機の帰還はちょっと読んだことがないレベルでしたね、ええ。


 以上。本当にこの作者の作品を好きだと再認識しました。続きを楽しみにしています。

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