Fate/Requiem 1 雑感

 嘗て聖杯戦争があった。戦争が終わって平和になった現在、誰もが聖杯を持ち、サーヴァントを召喚するようになった。そして人類は聖杯の力で不老不死を達成した。世界で唯一人聖杯を持たない少女・宇津見エリセは、召喚出来るサーヴァントもおらず、自然に成長し死んでいく筈だった。しかし彼女が川に沈められた時、運命と出会う――


 星空めておによる聖杯戦争に纏わる新シリーズ。
 それは聖杯戦争終結後の未来の物語でもあり、或いは終わっていなかった聖杯戦争が再度燃え上がらんとする物語でもありました。
 なにせこの作品もまた、原典を初発に様々な媒体でこれまで何度も繰り返されてきた号令――「あなたがわたしのマスターか」という問いかけで始まるのです。

  「あい、あすく、ゆー」


 とつとつとした英語。
 この私に呼びかけている。まっすぐに。


  「あー、ゆー、わーじー、おぶ、びーいんぐ、まい、ますたー?」
 (Fate/Requiem 1 星巡る少年(TYPE-MOONBOOKS)(Kindleの位置No.424-426))

 聖杯戦争が終わり、聖杯と不老不死がありふれ、数多のサーヴァントが当たり前のように跋扈する異形の未来では、そのマスターかどうかを確かめる問いかけは消えゆくはずでした。しかしはぐれもののエリセが運命と漸く出会った時に聖杯戦争における例外を内包し物語が駆動していきます。
 
 例外――名前の判らないサーヴァントの真名当て。
 一対一対応でサーヴァントが召喚される現在では在りえない、誰も知らない、誰か判らないサーヴァント。
 星々の海を駆けてきた記憶を持つ「きみ」――対応するサーヴァントを持たないままで生きてきたエリセが川で出会った少年サーヴァントは誰なのか、そして誰のサーヴァントなのか。本当にエリセの運命なのか。

 例外――不老不死の筈の人類が殺され令呪が回収される起こらない筈の殺人事件。
 誰がどのように殺して、集めた令呪をどう使おうというのか。

 Fateの原典が”聖杯戦争の例外"しか語ってこなかったので正しく意図を継いでいるのかもしれませんが、この本における例外にも巻措く能わずの魅力がありました。
 この心を奪われるサスペンスが、星空めておの筆致で、世の中ままならないと嘆きながらも自分の足で歩いていくのを止めない少女の一人称で書かれるのです。そのキャラクタが言動や決断をもって自覚的に物語を動かしていく追体験をすることで、思う存分に小説を楽しめました。

 さて、本作はシリーズ1巻目と言うことで、聖杯戦争が再度始まったところで終わります。これから、かのサーヴァントとエリセがどう活躍していくのか、近いうちに出版される2巻が楽しみです。あとFGOコラボシナリオも心待ちにしています(というか積んでいたのをコラボシナリオ前になって焦って手を付けて一気に読みました)。積んでいたのは後悔しましたが、冷めないうちに一気に味わえるので逆に良かったかもしれません。

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