贖罪の教室 感想

  • 前置き

 本作は元々2000年4月7日に発売されたもので、2003年4月25日発売の『生贄の教室』に教室シリーズとして『傀儡の教室』『贖罪の教室 BADEND』『傀儡の教室HAPPYEND』とまとめられてディレクターズカット版で収録されました。
 今回の感想は『生贄の教室』に収録されたバージョンによります。


 致命的なネタバレには気をつけましたが、ひょっとしたら深刻にネタバレしているかもしれません。ご注意ください。

  • 全体像

 主な舞台は私立・明美学院。この学院は不思議な伝統として『贖罪新聞』が伝えられています。不正やいじめなど生徒・先生問わず罪を告発し弾劾し罰を唆す匿名の新聞で、末尾には

 なおこの新聞は読後焼却のこと。
 もしもクラス以外の関係者にこのことを漏らした場合、その人物は贖罪されるであろう。注意されたい。

 と記されており、秘密を固く守ろうとします。性質上『贖罪新聞』を発端とした陰湿ないじめに発展しやすい傾向にあり、長い歴史の中で悲惨な事件を数々生んできました。本作は題名通り罪とその贖いをテーマに、『贖罪新聞』に関係してしまい錯綜する人物関係を長いスパンで描いています。


 プロローグの時点は2000年12月11日深夜、平松浩司が新聞記者・西野貴宏殺害の現行犯で逮捕された場面が提示されます。そして場面が転じて2000年2月8日、視点人物は明美学院3年の平松七瀬――平松浩司の娘です。彼女は今まで話したことがなかった男子のクラスメイトに突然話しかけられ、脅されます。

「こっちが下手に出ていれば調子に乗りやがって……人殺しの子供がっ!!」

「少しは反省しろってんだよぉ。お前のおやじの罪を贖えってんだ」

「俺たちの言うことを聞けば、贖罪が出来るぜ」

 全くもって意味が通じない理不尽な脅迫なのですが、七瀬はなぜか応えます。

「分かりました。あなた達の言うことを聞きます。罪を贖うため……贖罪のために」

 これが彼女の贖罪の日々の始まりであり、『贖罪新聞』に取り上げられることになります。以降、彼女の立場は『贖罪新聞』で密やかかつ広範に広まり、クラスメイト男子を始め多くの男たちに辱められるのですが、全てを贖罪として受け入れます。そして辱かしめられるにつれて淫らに変質してしまうのですが、今は置いておきましょう。
 こうした前置きが終わった後、↓のようにまず3章が提示されます。この3章はどれからでも選べるのですが、上から順に選ぶのが吉だとお勧めしますし、上から順に選ぶものとして話を進めていきます。なお、このスクショからもやたら複雑な人物関係が伝わると思います。
 


 『樹海の瀬に咲く花』ではプロローグの続きからで七瀬の贖罪=凌辱の日々が巻き込まれる友人や家庭教師などの女たちを含めて只管に描かれています。犯されて、輪姦されて、おもちゃにされて――マッハで感じていくのですが、感じてはいけないのに感じる変態であるのを明らかにして自分を貶めることこそが贖罪の証と彼女は考えます。

 それらは全て罪を贖うため。
 罪を贖えないのなら、こんなことはしない。
 これで私が感じたり、男たちが気持ちいいと言ってくれれば、贖罪になる。
 欲求のはけ口になり、自分を貶めることで私は、贖罪を為す。

 そうした思考と体の快楽とが入り混じっていき何が自分の本当かわからなくなりながらも、毎日辱められ消耗していき――七瀬は壊れていきます。この過程は一人称で彼女の精神に沿っているからこそ凄まじく浮世めいて陰惨なものでした。時折入る友人や家庭教師の救いや、好きな人との逢瀬が全てが凌辱に巻き込まれていくのですが、それも実にふわふわとした精神を通して語られていると納得させられる描写でした。これら全てを通して心と体とが解離している様が実によく理解できました。この章はこうしたように、贖罪のために押し潰されようとする少女が描かれています。


 『重なり合う友愛』は2000年1月末頃からの話です。七瀬が彼女の友人・まどかが書いた七瀬を主人公とし贖罪のために凌辱されるエロ小説を読んで感想を返す、やり取りが書かれています。繰り返しますが自分が凌辱を受ける小説を友人の女性が書いていて、その小説を七瀬は読みます。何と言う先鋭的なやり取りと思う訳なのですが、彼女の感想は“楽しい”とか“もっとエッチにしてほしい”とかほぼ好意的なものであり、まどかは彼女の感想によって書くモチベーションが上がります。変わった女同士の友情だなあで済ます所ですが、問題なのは小説の内容。『樹海の瀬に咲く花』を通過したなら判りますが、強姦・輪姦・痴漢などなどほぼ沿っています。10か月前のこの小説が何を意味するのか――この章では全く判りません。最後にもっとも重要な七瀬の感想は明かされず、爆発する彼女たちの感情にも沿うことができません。でも、七瀬とまどかの友情がある種のキーとなっていることが判る内容でした。


 『真実の清算』はガラリと趣向が変わっていて、時点を冒頭の殺人事件が起こるあたりにおき、七瀬の友人であるまどかの父親・結城禎史をメインキャラクターに持ってきています。禎史はフリーライターであり、とある縁から西野貴宏殺人事件を追うことになります。その取材に沿って徐々に殺人事件の表層に触れていくというのがこの章の仕掛けです。更なる過去の殺人や意外な人物関係が明らかになるのですが、この章の皮肉な所は過程をすっ飛ばして答えだけにたどりつくルートと、答えを吹っ飛ばして過程だけほのめかされるルートがあり、前者をGood End『閉ざされた真実』と呼ぶのですが、実の所何も明らかにはなっておらずなんと正史ではありません。この情報量の操作は嫌らしい位に巧みです。どちらも通過させることで、どうしようもなさを際立たせている所が特に。
 そして後々、更に皮肉な色合いを帯びてくるのですが、今は置いておきましょう。


 以上のシナリオを見て、再度『樹海の瀬に咲く花』をプレイすると先へ進み、更なる章が開示されます。仄めかされていた過去、今まで出てきた人物の裏――そして全ての始まりとなった恋愛。どんどん追加されていく情報を整理することで、あまりにも複雑になった人物関係にぶち当たることになります。また今まで貼られてきた言動の伏線もばっちりと効いていました。
 複雑な関係の上に、誰が何をしたのか、そして今何をしているのか判っていても何を考えているのかさっぱり判らない状況の構築の手腕はサスペンスのお手本と言いたくなるぐらい妙でした。
 そうして最初に提示された相関図が全て埋まり、情報が出揃った所で、最後のカタルシスに突入するのですが、その時にはもうどうオチをつけるのか目が離せませんでした。


 どのような答えが出たのか、それは語る訳にはいけませんし、語る気もありません。ただあまりにも悲惨な掛け違いに震えました。

 
 だから最後の最後。
 全ての悲劇を知った上で、再度プレイすると、とある時点から開始することになります。そして出る選択肢――掛け違いの掛けなおし。一枚の絵も使われないまま語られたのは贖罪の必要がない世界でした。それは、それまで積み重ねられた罪と贖いの否定であり、どうしようもないぐらいにGood Endの否定でした。
 最後の最後の眩暈のような否定の幸福に触れ、一回こっきりの人生をパラレルにプレイする――そうした選択肢の悲劇性を生み出した意図と、下世話な人物関係の絶妙な構想に感服しました。

  • エロ

 感じちゃダメなのに……
 感じちゃダメなのに……イっちゃう……
 かんじちゃ……だ……めなのに……

 という具合にダメなのに感じてしまうのを自覚したり揶揄されることで、余計に快楽が増す系統の凌辱エロが基本です。シチュ的には輪姦が多いです。
 そうしたエロはいじめと相性が抜群によく、陰湿さがエロさを際立たせていました。行為自体は他の凌辱物と比べると過激ではなく、せいぜいが電車で裸にしたり、ボディペイントでプールまで歩かせたりするぐらいですが、隠そうとする意志がかなり効果的に働いていました。
 つまり思考回路がエロい訳で、台詞や肉体描写はそこまでエロくはないかなという感じです。普通に喘ぎ声として取るなら良いかもしれません。だから和姦描写はいまいちなものになっている気がしました。


 CGは良いのですが、差分がほぼ無く使い回しが多いです。しかし回数が多いため、食い足りなさは少ないと思います。

  • 諸々

 攻略は厄介です。攻略サイトにお世話になりましょう。
 注意点としては『生贄の教室』でやる場合はオートセーブを初期化せず、章クリアのフラグ(白くなり選択できなくなります)を消さないことです。そうでないと先へ進めません。

  • まとめ

 以上。言及しなかった不満がちょいちょいありますが、それでも凌辱サスペンスの傑作と断言します。お薦めです。

  • Link

 ruf-オフィシャルホームページ


 

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