- 感想
窓に板が打ち付けられ、電気が点いていない、腐った匂いに満ちた、暗い部屋。
そこから出て来た少年は、そこで何を見たのか、それから何を見るのか――
一度は出版を拒否された小説をウィンドウズ・アプリケーションとして構築し直し、世に問うたのが本作です。
とある歪んだ家族の顛末を書いているのですが、よくある話と言えば、まあかなりよくある話です。類型的なイベントばかりであり、鬼面人を威すような特異な展開には持っていきません。しかし突飛さに目を引かれないからこそ、文章に集中でき、そこでは人間の思考を文章にかなり正確に落とす際立った手腕が披露されていました。
小説verでは三人称だったのを、アプリケーションに移すにあたって一人称にして大幅に変えたらしいのもプラスに働いている――或いは才能からしてどう書いても凄まじかったのかもしれませんが――のかもしれません。なお一人称切替は邪道でやりたくないとも語っているのですが、それは“〜〜の供述”という形にすることで極力回避していました。
それにしても、“供述”という単語。始めからこのような物騒な単語が使われることで、後に起こる事象の方向性を示唆していて、プレイヤは覚悟完了するというものです。
さて内容についてですが、陳腐であるからこそより一層どのように陳腐なのかをネタバレする訳にもいかず、詳しくは言及しません。
ただ作者である唐辺葉介さんが本作は“「子供の話」の総決算”として書いたと語っていて、確かにその通りでした。主要な人物は子供であり、親になりきれない大人ばかりです。そう、子供の対比であるのは親であり、何を持って親とするかが問題となります。
そして、そうではないにも関わらず、そうなれないにも関わらず毎回行われてしまう行為。
そのどうしようもない繰り返し、どうしてそうなったのかこそが主眼であるととりました。……って、何やらネタバレし出した気がするのでこのあたりで。
取り敢えずは登場人物たちの思考と行動の蓄積のどうしようもなさに震えてください。全てが終わった後にとある登場人物がこう考えます。
それまでの積み重ねを考えると、あの瞬間に他の行動を選択するのは、それこそ、生まれ変わりでもしなければ不可能だったと思われたのです。残酷なようですが、私は酷く冷静にそう判断を下し、起こるべきことが起きたのだと考えました。
起こるべきことが起きた――まさしくその通りなのでしょう。
そして、繰り返しが途切れた理由は多分単純で、出来が悪かったからでしょう――
最後に要望としては、三人称の小説版も機会があれば読みたいという感じで。
以上。何はともあれ唐辺葉介さんにしか書けない傑作でした。
- おまけ小冊子
公式通販で購入した場合、8年ぐらい前に書いたプシュケの元ネタという短編が付いてきます。装丁がぺらぺらなのが意図不明ですが、中身は唐辺葉介さんらしい内容でした。是非付いている方を購入するのをお薦めします。
- Link
OHP-暗い部屋 公式サイト