わたし、二番目の彼女でいいから。 1-4 雑感

 桐島司郎と早坂あかねはお互いに一番好きな人がいるけれども二番目に好きな同士として密かに付き合っていた。しかし桐島の一番好きなひとである橘ひかりが桐島に接近してきたことをきっかけに彼と彼女の関係は崩れていく――

 清純で可愛く人気がある早坂あかねと、近寄りがたい美人の橘ひかりと、平凡な男子高校生の桐島司郎との3人の恋愛模様とそれに巻き込まれる人々を書くライトノベルシリーズ。
 いやはや何というか――とてつもない修羅場物でした。 
 基本的には2人のヒロインが主人公の桐島を取り合うのにラブコメの皮をかぶってくれているのですが、にっちもさっちもならなくなった時にすっと真顔になって差しだしてくるぎすぎすした有様はシャレが効かない心底胃の痛くなるものでした。
 そして章を重ね、巻を増すごとに修羅場は物の見事にエスカレーションしていきます。
 読んでいて、修羅場を愉しむと言っても限度があるでしょ!!!と何度叫びたくなったことか。

 や、最初は修羅場が楽しいんですよ?
 高嶺の花の橘さんがミステリー研究部に入部して、耳元ミステリーをやろう!とかアホなことを言い出して曰く。

 俺は橘さんのとなりに腰かける。そしてすかさず、彼女の耳元でささやいた。
シャーロック・ホームズの冒険
 そのタイトルをきいて、今度は橘さんが俺の耳元でささやく。
アーサー・コナン・ドイル
 耳元で橘さんのささやき声をきいて、思わず背すじに快感が走る。橘さんの声、きれいだ。
  (西条陽.わたし、二番目の彼女でいいから。(電撃文庫)(pp.121-122).)

 でも、ちょっと前に桐島はあかねの部屋でキスをしたり乳くりあったよね、でも憧れの一番目に好きなひとなのでしょうがないと流されていくのも一興。
 ヒロインがそれぞれの整髪剤を桐島に塗りたくってマーキングするのもかわいいもの。
 ちょっと2人ともとキスしてしまって、キスの上塗りをしだすのも――いやあどうなんだろう。
 いつしか2番目に好きでもいいとかお題目はどっかに吹っ飛んでいきます。
 桐島は二人のヒロインに共有されて、でも共有しっぱなしなのは我慢できなくてヒロインたちは一番を競いあってしまう、桐島はどちらを選べない――、好きな気持ちを我慢したりしなかったり、世間体を気にしたり気にしなかったり、互いを思いやったり阻害しようとしたりしながら、2人のヒロインと主人公はどうしようもない雁字搦めの関係へと進んでいきます。
 それを読むのも楽しい、楽しいんですが胃が重いんですよ。
 何故か修羅場の説明を受けて絶叫する役の後輩・浜波がなんどか代弁してくれて何とかこの関係はギャグだ、ギャグ・・・と騙せたり――

 俺は橘さんや早坂さん、柳先輩との関係を説明する。
「狂気!」
 話をきき終わり、浜波は目を見開いて叫んだ。
「恐いんですけど! なにやってるんですか!? ていうか、なんでそんなこと私に話すんですか?」
  (西条陽.わたし、二番目の彼女でいいから。2(電撃文庫)(p.109))

「でも、たしかにみんな楽しそうですね」
「だろ?」
「全員、倫理観がぶっ壊れてることに目をつむればね!」
 急にテンションをあげてくる浜波。
「あと、ふたりが仲良しなの絶対今だけですよ! うわべだけ! うわべモンスター!」
  (西条陽.わたし、二番目の彼女でいいから。3(電撃文庫)(pp.45-46))

 いやまあ騙せないな、うん、と読んでいて、どうするんだこいつらとラブコメらしからぬ緊張感がどんどんと高まっていきます。
 
 この緊張感を高める効果はこの作者の描写の仕方でより顕著になっていました。
 この作品において大事なもの/核になるものを露わにするのが後回しにされているのです。
 恋愛のミステリ的な仕掛けとも言え、多くの例があるのですが、巧い作者としては丸戸史明さんでしょうか。
 好きなった――どうして好きになったのか、2人のうちどちらかを選べない――どうして選べないのか。
 大事にするために意図的に隠して騙すその描写と、その関係性はなにもかもの破綻――修羅場の終わりに向けてあまりにも見事ないろどりを与えていました。

 そう、修羅場の終わりが来る4巻を御覧じろ。
 どうしようもなくなった、笑いが挟まれる余地のない、あのカタストロフィを。
 これぞ修羅場物だという醜さをご覧あれ。

 そして最後の文章にもんどり打つが良い――


 以上。大層好みで満足。あれからどうなるのか、続編がすっごい楽しみです。

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