その着せ替え人形は恋をする 13 雑感

 ギャルなモデルのJKでコスプレ好きの海夢が、雛人形の頭師を目指している手先が器用な五条くんにコスチュームを作ってもらい化粧も施され見事なコスプレを披露する――と続いてきた本シリーズ。

 彼らの関係は比翼のもの。海夢の素材と心意気――顔と体型と振る舞い、そして成りきるキャラクタを愛した上での演技が前提で、だからこそ五条くんはその技術と想いによって合うように考え抜いて偏執的に手を加えてきました。そして海夢は自分を見事に変身させてくれる五条くんをひとえに信用しますし、見事に変身する海夢を見て五条くんは憧れを強くしていきます。五条くんとしては言いたいことをいえず引っ込み思案で閉じこもっていた自分とは違う眩い海夢は素晴らしいし、自分は彼女を支えられるだけで満足だ、と。
 ここの五条くんの想いがシリーズを通して表に出ないネックとなっていて、彼は自分に自信がなく、どれだけ彼らの合作である海夢のコスプレが素晴らしくても海夢だからこそ映えていてるのだし、自分でなくても彼女を飾られるし、なんならもっと相応しい人がきっといるとさえ考えてしまっているのです。


 さて、それを前提として。
 この巻ではこれまで準備に必死だった『天命』という傑作漫画のハニエルという天使のコスプレを冬コミですることになります。
 悪魔を愛し地獄に落とされた天使の姿を模せるのか。
 作者のこだわりが強く映像化を許されてこず、強烈な才能によって美の形を与えられた存在のコスプレが出来るのか。
 五条くんは素材からなにから七転八倒しながらもこれまでのようにそのコスチュームを仕立て上げてしまい、海夢にかく人に興味がなく人が跪く天使のように美しくあるように化粧させます。
 海夢はそれに答え、コスチュームが合い、化粧が合い、天使のように振る舞うことで見事にコスプレが成就し――天使が冬コミへと突如降り立ちます。

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 この海夢がハニエルのコスプレをしたというのはある種の事件で、その事件の詳細がこの本で記されたのです。
 本当に空気感の描写が驚くぐらい巧みでした。それはシリアスで暗めの格好つけやすい雰囲気一辺倒ではなく、コスプレして撮影している空気と、コスチュームを着ながらコスプレをせずに普通に笑って歩く日常と対に描かれることで、あのコスプレ凄まじい――と読んでいて叩き込まれました。

 ほんとこれだけでも素晴らしいのですが、この冬コミで誇張なく世界が海夢というコスプレイヤーを知った事件の当事者となった五条くんの反応がこじれ過ぎで、それはそれでびっくりするのでした。
 なんでさ・・・。
 次巻以降しっかり話し合って、さっさと解決しようね・・・・。きっと無理でしょうけど・・・。


 以上。8巻で魅せた盛り上がりを超えるシリーズ最高潮の一巻でした。続きに期待しています。

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