アクタージュ 9 雑感

 前巻から引き続き、舞台『羅刹女』に挑む2つのチームの準備を描いています。
 鉄扇公主を主役としたその舞台は、炎を消す秘宝の持ち主の心の持ち様/怒りがモチーフとして取り上げられます。
 そして演技者たちがどう怒りを表現するのか、演出家たちはそんな演者を使って炎と怒りをどう演出しようとするのか、を丁寧に追っていきます。

 自己理解――夜凪は過去を追体験する『メソッド演技』の技法で、今は想像だに出来ない自身の身をも燃やすような『怒り』を想起し追体験できるのか。百城は他人からどう見られるかということに自覚的だったか、夜凪への想いを言語化し自分が自己を見据えることが出来るのか。
 チーム間の相克――演じる者と、演じさせる者の目的が合一するか。それは夜凪にとっては新しい指導者・新しい同胞に出会うことでもあり、かつて指導した監督と憧れの女優・百城が組んで敵対することでもあり。
 チーム間の相克――そしてかつての監督は百城を成長させるためだけに夜凪を百城の餌にしようとします。

 本番/宴/合戦は当然として、支度もまたいと楽しという訳で。ジャンプを筆頭とする少年漫画でよくある特訓は答え合わせである戦いまでに何を準備するかという戦略の時間であり、そこで得るもの全てがそのキャラクタそのものとなるので、その密度が濃ければ濃いほど我を貫き通せるかどうかの合戦前の緊張感がより高まっていくというものです。
 少女たちは全力をかけなければ達成しえないと理解した上で、全身をかけて相手を凌駕するために自分を研ぎ澄ましています。これまでの巻の積み重ねで本番で素晴らしい舞台が生じることが前提の上で、夜凪と百城が相手に自分の演技をひいては自己をぶつけるために自己を研鑽していく様が本当に愛おしい。
 特に百城のようよう明かされる胸中が輝いています。

「ずっと
 見てきたの
 夜凪さんのこと」
「ずっと」
  (kindle No.122)

 そこから連なる、彼女の願い。
 大きな感情のぶつかり合いを百合と呼ぶのであれば、これは百合でしかないのでしょう。甘露甘露と味わいました。

 それにしても、ああ、ほんとに本番が楽しみです。

 以上。堪能しました。今から次巻が待ち遠しいですね。

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