白昼夢の青写真 雑感

 3つの夢を見る。夢の中で、冴えない非常勤講師と有名小説家の娘とが出会い、パブを営むシェイクスピアと女性座長とが出会い、カメラマン志望の少年と教育実習生とが出会い、物語が動いていく。夢の全てが語られた先に何が待っているのか――

 Laplacian制作のADV。steam版をプレイしましたので、エロシーンはカットされていました。
 
 さて、本作は前半から中盤まではcase 1~3と題された夢が語られます。
 いずれも男女が出会い、創作の悩みに当たりながら縁を深めていくというもの。
 case-1は私小説的なアプローチがされています。主人公はかつて小説家を志しながら挫折したよくいる非常勤国語講師。彼がひょんなことからある有名小説家が遺した部屋と文章に浸るようになり、次第に死に近づいていきながら再び語ることが出来るようになるのか、語るに足る対象を見つけられるのか――というテーマ探しがテーマ。
 case-2は社会構造に翻弄される創作者の抗いが取り上げられます。いずれ世界で最も有名な英文学作家になるシェイクスピアはまだ未熟で、国が許さない女優を夢見る座長に奴隷として買われて劇作家として世に出ていく一歩を踏み出すことになる――という歴史フィクション。その時代の構造の障害――宗教・性別・身分制度に翻弄され、それでもヒロインを想い抗い続けたという熱が描かれます。
 case-3はこれから創作者になろうとする幼年期を取り上げています。母親のようなカメラマンになりたいと志す学生の主人公は母親が計画していたハレー彗星の構図の写真を撮ってカメラマンの第一歩足ろうと学校にも行かずに計画を練っていました。そこに変な女の教育実習生が訪れて、星を撮る夢はあらぬ方向へと転がっていく――と。いまなりたいと思っている未来の形は本心なのか試されながら少年は大人になろうとしていく――これぞ少年時代、これぞ成長物という内容が存分に語られました。
 
 それぞれのcaseを相互に移りながら、どうして夢を見ているのかの疑問が次第に強くなっていき、後半の焦点になっていきます。
 中盤までの感想としては正直、case-1は古臭さがつらくて、case-2はなんちゃってシェイクスピアさがつらくて、進めるのが結構しんどかったのは事実です。
 しかしcase-3が爽快な青春物としてストレートで非常に好みであり、モチベーションは保たれていました。や、外れ者が集まってガレージでわちゃわちゃしながらひと夏を過ごすという形式にそもそも弱いのですが、ヒロインのあっけらかんさとした言動の描き方が見事で、これ単体で取り出しても上位に上げたくなるジュブナイル具合でした。

 そして期待したりしなかったりしながら、全ての明かされる後半へと進んでいき――めがっさ膝を打ちまくりました。
 なるほど。
 これは夢をループして見続けなければならなかったし、コンフリクト――己と己、己と社会、己の希望と現実――を語らなければならなかったし、主人公とヒロインは出会い別れなければならなかったし――とプレイしてきた全てが綺麗に配置されて畳まれていくのは爽快でした。腑に落ちすぎなのは逆に陳腐になる危険性もあるのですが、良い意味で計算高く美しい形を見せてくれるのであれば、それはもうその意図を大いに称えたいところ。
 なにより個人的に、古臭い古典を参照にせざるをえなかった――シェイクスピアでなければならなかったのがやられたという感じでした(100年以上先に語られうるものがたりは何かという答えとして)。

 絵は良かったですし、ボーカルは結構な数あって豪華でしたし、UIはシーンによって変化するという凝りようも好感度高かったです。
 なお要求を言うならTIPSの未読と既読の差が分かりにくいので、NEWは色を変えて欲しかったですね。


 以上。良く出来た秀作で楽しめました。

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