eden* PLUS+MOSAIC 感想

 ネタバレ注意。あとeden*はSFと言う方も注意ください。





 ――それは地球で最後の恋物語

 宣言されているようにとある青年と100歳の少女との恋愛を只管に描いています。主要登場人物は限られていますし、舞台となる世界の説明も最小限です。


 なぜ世界は滅びようとしているのか、
 赤い星は何か関係あるのか
 具体的な移民船の形はどのようなのか
 どの方角を目指したのか


 全く言及されません。ここで取られているのはあえて説明しないことによることで説得力を増す手法ではありません。加えてCGは最後まで恐ろしいまでに滅亡を感じさせないため、見事なまでに世界の終わりが薄っぺらくなっています。この説明不足による形骸化は当然目論まれているのでしょう。こんな手垢塗れのネタの辻褄合わせなんぞは長年物語を作られている方にとってお茶の子さいさいに決まってます。本作においては、人類を救った天才で100歳の美少女がいて、長い軍生活で心に傷を負った青年軍人がいる――それを判り易く成立させるのが第一。そうして腐心して陳腐を高じさせたからこそ、間口が広くなっていると受け取りました。
 
 
 そんな訳でシンプルに“地球で最後の恋物語”が果たされることになります。構造としては前半にヒロインと出会い、OPムービーを挟んで、後半に二人っきりの生活が書かれます。


 メインヒロインであるシオンは初めは不老の天才という噂通りの取っ付き難い印象を持たせるのですが、青年軍人・亮と出会い時間を経るにつれて可愛さや屈託など深みが出て来ました。展開とキャラ設定が理想通りに結びついていました。気に入るかどうかでがらりと印象が変わることでしょうが、少なくとも反感を買うようなキャラクタにはなっていません。
 前半で他に重要となるのはシオンの姉的存在であるエリカと、同年代の女性軍人ラヴィで、基本的には彼女たちと亮の上司との館生活となっています。
 エリカは亮を戻す役割と、亮とシオンを結びつけるを果たします。一度だけではなく、何度でも。真の意味は遠回りを経て後半で明らかにされるのですが、SFとしての感動とはまた違って、その遺伝子だけではない心の結びつきに素直に感動しました。
 先を進んだ存在と後から来る存在のリンクであり、人間の都合の良いようにデザインされた生命・フェリックス――同胞を誰も見捨てないという決意のもと、極めて悲痛で美しい一生が結実します。彼女がいたからこそ、人類の与り知らぬ所で人類の延命が与えられることになります。人類が恩を返せる日が来るのは、恐らくはシオンと亮との物語とが正しく流布された時になるのでしょう。
 ここで関連してくる、後半のとある重要人物がいるのですが、OHPのキャラ紹介に出て来ないため詳しくは言えません。が、彼らたちの物語を正しく残し広める役割を果たすことになる可能性を秘めています。またシオンと亮の関係のタイムリミットとしても作用し、その結果きちんとした彼らなりの答えを出させます。他に以下のような意味があるそうです↓
 過たれた生の、その過ちゆえの肯定――minori『eden*』 - 極南の空へ



 順番が逆になりましたが、最後ラヴィについて。彼女は恐らくは亮の歪んだ鏡なのでしょう。軍人としての才能・経験と心との乖離を同じくし、夢見たものの互い違いによって、互いに置いていかれることになります。


 さて、後半で二人の生活は穏やかに書かれます。そこではシオンが得られなかった経験を積み重ねていく回復の物語と、徐々に限界が来て衰えていくシオンを見守る喪失の物語を同時に進行します。もう誰も邪魔しない二人の世界の行く末の結末は初めに提示されていて、一人称による絶望した心情が吐かれています。けれども彼らを追体験していくことで、質が劇的に変わります。変換は極めて鮮やかでした。
 具体的に伝わるように語れないので是非プレイしてみてくださいとしか言えません。
 なお、後半部分で亮の生い立ちに理知的な答えが出るので、そこには興奮しました。よくあると言えばあるのですが、繋がり方が見事でした。



 背景に関してはわざとなのでしょうが、地球の終わりを意味する自然の衰えが文章で示唆されても、絵的には全く崩壊していきません。その現実と見える世界のミスマッチこそが彼――彼らの心情を暗喩しているのでしょう。


 つまりは、楽園、と。



 このソフトをインストールすることで本編の暴力表現・露出表現が更新され、主要女性登場人物4名のHありのシナリオが追加されます。


 本編のイメージを大事にするなら、その更新と追加は良し悪しです。
 一般のままの本編では流血描写などが隠されているのでしょうから、演出は確かに意図された通りになっているのでしょう。その為に興ざめすることなくより臨場感を持って物語を受け取ることが出来たのかもしれません。
 対してHシーンはどうかと疑問でした。シオン以外の登場人物たちのルートでは彼女たちにとって憩い、答え、知識となっていてありうべきイベントだったのかもしれません。けれども、亮とシオンの恋物語としてあった本編を鑑みると語りえぬものを切り離して書いてしまったのは余分だった気がします。特にエロゲ文法の3Pは萎えました。
 暴力制限解放パッチだけを選べたらそちらを選びます。


 ただしシオンイベントはエロは余分だなあと思うものの、うさぎ跳びが可愛い過ぎなのでノープロブレム。

  • 絵、音楽、演出などに関して

 絵は可愛い系で好みでした。


 音楽は場面を盛り上げていましたし、頻繁に流れる主旋律は良曲だった気がします。OPの歌は声を張り上げる部分と押さえる部分の両極は良かったですが、普通に歌っている所は微妙という感想です。まあ耳に自信が無いので各自お聞きください。


 文章・絵・音楽・エフェクトをひっくるめた演出はほぼ文句なし。未読スキップを許さないのも判ります。


 システムは普通です。


  • 結語

 以上。隙の無い佳作でした。演出上はeden*とPLUS+MOSAICとを買うのをお薦めしますが、そういった暴力の制限を気にしないなら本編だけでいいでしょう。

  • Link

 OHP-minori official web site


eden*
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  • 一緒に読むといいかもしれない小説・最低限

 ・未知の地平線(R・A・ハインライン):フェリクスの元ネタ
 ・地球最後の日(フィリップ・ワイリー&エドウィンバーマー):地球脱出物の古典的名作
 ・太陽系最後の日(A・C・クラーク):地球移民物の古典的名作。
 ・ムーミン谷の彗星(トーベ・ヤンソン):赤い星、衰える地球、eden*ムーミン谷の彗星だったんだよ!


  

  

 プレイして感じたことで語り零した物は以下にありますので、参照までに。
 eden* PLUS+MOSAICに関するつぶやき - ここにいないのは