夏休み直前、演劇部後輩の女優と降りしきる雨を見ながら1回だけ夜を共にした日のことを思い出す――
プレイ時間1時間ぐらいの短編ノベル。
『青春』×『寝取られ』がコンセプトで、確かにその2つのエッセンスがぎゅっとつまっていました。
導入のなにげない台詞と描写でヒロインが大事なもの/青春のかけがえのないのものの象徴だと非常に上手く示されてしまったからこそ、彼女が汚されれば――大事なもの/青春のかけがえのないのものまた汚されてしまうとどうしようもなく理解させられます。
潰れかけの演劇部にヒロインを強引に誘って、一緒に部員を増やして、劇を公演してきた1年ちょっと。婚約者がいて卒業とともに結婚させられるヒロインにとっては最後の自由時間であり、後悔したくない過ごし方をしたかったそのときを彼女がどう思っているか笑って述べてくれます。
始まりはなし崩しで若さと体験のなさで恰好つかなくても、その匂いと肌の感触を忘れられなくなった初体験もこなしました。
そんな彼女がこの夏休みを婚約者と共にホテルで過ごすことになった――と告げ、さりげなく旅立つ日時を付け加えてきたら、主人公はどうするのか。
いやあ、ほんと胸にぐっとくる喪失でしたね。
彼はどうしようもなさに打ちのめさる。
彼女は汚され、諦める。
そこまで長い文章でもないのですが、普通の青春を送っていたところにかなりの汚辱的なイベントを突っ込んでくるわ、愛嬌と思った毛深い体質はわらわれるわ、彼女の口からなにが起こったかしっかりと報告させるわ、そして初体験でも大事にしたあるものを失っているわと、輝くものとときが汚れて閉ざされていくのがしっかりと表現されていました。
エロとしては無理やりに悦ばさせられはするのですが、快楽堕ちになれず、痛々しさが表に出ていました。それはそれで良いものかと。
その上でのラストが綺麗な切れ味でうっとりしました。
汚されてもなお輝けるものを観た魅了と、必ず待つ苦難に今度こそ完全に打ちのめされるだろうという刹那への憐憫と、それでも最後はハッピーエンドであると信じたいというほのかな期待が混ぜこぜになった締めはこの作品に相応しいものでした。
絵は素晴らしく、ヒロインの表情差分も揃えられて魅力的で、目パチも彼女の視線を意識させる効果があってグー。
場面変換などの演出も良く、ノベルゲームとしてほぼ文句なし。
以上。良い作品でした。次回予告もこれまた良さげであり、楽しみにしています。
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