本作は壮大な世界観に基づいた長い長い歴史の中の一幕であり、機関化に侵食されつつある砂漠の都市における群像劇であり、少年が少女と出会うボーイ・ミーツ・ガールでもあります。
まず歴史物として。OHPを見れば一目瞭然ですが、セレナリア、インガノック、シャルノスと続くスチームバンクシリーズの設定はかなりしっかりしています。確固たる設定の下で、歴史・社会・人種等々や独自の単語が作中では何の説明もなくぽっと出されます。ただし頻度は鼻につかない程度の常識的な範囲であり、単語の使い方も人それぞれに捻ってありました。このことで立ち位置まで判り、この作られた世界で確かに生きている人物の発言する台詞として何の違和感なく受け取れます。それに地の文も無駄な説明ないためテンポよく読みやすくなっています。
自然で読み易いと言いましたが、スチームバンクで大事なのは格好良い事で、どのような時でも無意味に作中で説明しないスタイリッシュさは実にスチームバンクっぽかったです。意味は開始画面から行ける用語集で確認出来ますし、狙いは成功していたと思います。
ついで本作の時間の流れですが、大きい目で見ると歴史――豊富なバックボーンの些細な一瞬を切り取ったものであることが、機関という新しいテクノロジーが流入しつつあり同時に旧い盟約が幅を利かせるアラビアちっくな都市を舞台にすることで見事に表されていました。継続的な蓄積である慣習と断絶した流入である変化――どちらもが語られないまでもそれらを成り立たせた歴史を感じさせ、なおかつ交差している今=プレイしている現在が成り立っていると判りやすくなっています。
群像劇として。章構成になっていて、それぞれメインとなる人物が異なり、思わぬ所で絡みあって進行するという展開になっています。段々と人物関係が繋がって行くのは素直に良く出来ていました。
そしてボーイ・ミーツ・ガール。何よりもまずヒロイン。途中経過1と2から判るとおり、クセルクセス・セルラ・ブリート――通称クセルがえらい可愛かったです。クセルの台詞・表情・仕草・服装に萌え転げること間違いありません。
しっかりしていて気丈で、どこかおっとりしていて世間知らずの性格。フリフリの服からよそ行きの服、メイド服等々の着こなし。ちょっと困ったような顔、しんと見つめる瞳、けぶるような笑みといった、ころころ変わる表情。
全てが巧みで絶妙で、圧倒的でした。
少年もまた変な言い方ですが愛らしく好感を持て、徐々に募る好感とつたない逢瀬はそれはもう本当に微笑ましく、引き込まれました。
しかし順調に行くのは許さない状況――その状況はまた彼らが出会えたきっかけでもあり――。だからボーイ・ミーツ・ガールの物語は、会うだけではなく、互いに求める物語として動き出します。
【アスル】わかった。
僕はきみを助ける。
以降を語るのは野暮なこと。
【ヒルド】生きなさい。
貴方の想いの果てへ。
【レオ】我が命題に回答を!
ひとが“ここ”では終わらぬ理由を!
彼らはありとあらゆる障害を超え、白光の軌跡を描きながら答えを出して行きます。
文章。過度な修飾をせず論旨は明快ながら単純ではなく、繰り返しが多く、喝采による盛り上がりが多いと、相変わらず癖がある文章でした。大好きです。
絵。愛嬌がある人物とよく判らないフリークと度を越して全然判らないガジェットとが小道具・細部まで描きこまれていました。素晴らしいクオリティであり、これ以上ないぐらいに内容と文章にベストマッチしていました。この絵と塗りのセンスなくしてこの作品は成り立たなかったんじゃないだろうか言うぐらいに不可分でしょう。また一瞬で夜に変わるエフェクトも感心しました。
こうしたイメージを結ばない文章と文章に互換されないイメージとが両立することで、固有の異様な空間を浮かび上がらせていました。これぞ映像と文章とが併用される醍醐味でしょう。
音楽も雰囲気を高めていました。声もぴったりでした。
エロ。……エロはまあ求める方が間違っているということで。
以上。エロゲの媒体の魅力が存分に出た良作でした。
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OHP-ライアーソフトウェブページ
参考リンク-〜うそつき屋ファンブログ〜/ウェブリブログ
xianxianさんの白光のヴァルーシア What a Beautiful Hopesの感想