フリックドロップ 感想

 同人ノベルでSFということで、ふと買ってみたのですがこれが大当たり。初めに言っておきますが傑作です。
 

 まず概要ですが、フリックの衝突によって人類滅亡すれすれになったものの、何故かフリックの周りでのみ生存できた未来の地球が舞台となっています。フリックによりヒューマノイド制作の技術が飛躍的に向上し、ヒューマノイド=Hタイプと従来の工業用ロボット=Iタイプとの2種のロボットと共に復興していき、フリック衝突前の文明まで戻りえました。けれども、人とロボットとの関係はほとんど成立していません。人の労働を肩代わりしつつ、人に近づいていくロボット。記憶・自律の権利は保証されているのですが、単に道具としてみるのか、または確固たる存在として認めるのか、その答えは出ず、人同士が擁護派と否定派に別れて争うようになっています。この作品は“人とロボットととはどうつきあっていくのか”“ロボットとは何か”“人とは何か”“魂とは何か”――そうした問いと、その答えとを巡る物語となっています。


 具体的にはA-sideとB-sideとに分かれて物語られます。A-sideはフリックを磨く青年と人とロボットの関係の答えを出すために生み出されたヒューマノイドとが、B-sideは突如として拉致監禁された記憶が曖昧な少年と無邪気な少女とが主人公格になっています。2つの物語の関係はクライマックスまで明かされないのですが、要所要所でリンクしてき相互に伏線になっているためプレイしていて想像を刺激させます。
 どちらも主題は前述のように人間とロボットとの関係についてです。寿命の問題、能力の問題、フランケンシュタイン・コンプレックス、etc障害は山積みです。しかし、どちらにおいても皆苦しみながら、もがきながら――日々を懸命に楽しんで生きて、懸命に考えていきます。
 どのキャラクタも深みを持って書かれていることもあり引き込まれました。クライマックスにかけてかなり厳しい道程になるのですが、全てが受け止めるべき軌跡であり、輝けるものなのだと、テーマと合わせて胸に残ります。


 最も強調したいのは設定の仕方と使い方で、共に抜群に上手かったです。
 ヒューマノイド製作の飛躍となり人類の生存を可能にしたフリックの特性。
 ロボットを人と共存する存在たらしめる認知の機能2つ――感情を司るタカハシプロトコロルとロボット三原則の具体化であるマエダロック。
 ロボットが現実に適応するための猶予――情報適合時間。
 などといったその設定だけでも興奮するピースが綺麗に納められていく手つきには快感を覚えました。あと設定を物語に落としこんで美しい風景に結実する手腕も見事でした。SFはやっぱり絵です。


 設定に関しても物語に関してもより詳細に語りたいのですが、プレイする喜びを奪ってしまっては本末転倒なのでここらへんにしておきます。
 代わりにキャラクタに関してもう少し言えば、メインヒロインはどちらのsideでも魅力がありました。強いて言えばA-sideのメインヒロイン・イロハはエクセレントです。清楚な風貌にさばけた性格と強い意志とが合わさりキマした。後貧乳。それに初めて出会った時のキャッチボール、夜空にフリックを見上げての会話など名シーンも多いです。後エロい。パッケージにエロはないですよ!と強調されていて、その通り直接的な表現はありませんが、エロいです。
 B-sideのメインヒロインはアマネは……大食いキャラ、ぐらい、かな?


 文章に関して。シナリオライタは二人いるのですが、盛り上げ時は盛り上げて、茶化し時は茶化すきちんと読める文章でした。所々奈須っぽいのは多分私の気のせいでしょう。


 絵に関して。人物絵は文句なし。女性キャラは可愛く、男性キャラは特徴が出ていました。背景絵は場面場面と合っていました。崩壊した地球を示す背景は風車に関する逸話と合わせてお気に入りです。
 一つだけ留保するならフリックが見上げるような高さであることを示す背景が一枚ぐらい欲しかったかなあと。特に夜にマンションの庭から見上げるシーンで一枚あればなあともにょもにょしていました。


 音楽はゲームと合っていました。


 以上。繰り返しますが傑作です。文庫本に1冊ぐらいのお値段ですので、是非購入してレッツプレイ。

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