ナルキッソス2 感想

 面白みがない感想かもしれません。
 2/23 加筆修正

  • 感想

 カトリック系のとある病院の7Fはホスピスとして機能していた。従って、そこに入るということは一般生活に戻れないことを意味していた。7Fの住人となり、死ぬ準備を余儀なくされた患者たちは何時しか密やかにルールを作り上げていた。彼らが自分と遺すものを守るための、彼らだけのルールを。伝える側と伝えられる側、残す側と残される側が出会う時、ささやかな物語が紡ぎ挙げられる――

 
 という概要のノベルです。これだけなら幾らでも感動物の作品を作れそうなのですが、作者は単なる泣きゲーに陥らさせたくなかったと述べています。意図は泣いたカタルシスによって作品により得た感情が得体の知れない美しいものに昇華されてしまうことを嫌った、と私は取っています。
 それで泣かさせない内容となったかはともかく、読み手の感情を誘導させるために高度な計算がされていました。


 まず細部について。
 序盤では軽い描写による何気ないもの(地図、ポテト、逆上がりetc)に重い意味を持たせることによって読み手が得る重さを増す、という技術を多用します。
 次いで中盤において意味が付与された“何気ないもの”を反復し、込められた効果を高めます。
 そして終盤に至ると登場人物から手放させた上で、改めて差し出され、更なる意味は読み手に委ねられて物語は締められます。


 次いで人物関係と構造と結末なのですが、極めて図式的なものとなっています。女の子−姫子、姫子−セツミ、セツミ−主人公という残す者と残される者との限定された1対1であることが等しくなっています。対して残される者に対する感情が異なり、残す者への関わり方が異なり、その結果としての結末は全く対照的なものとなっています。


 以上の工夫によって読み手はメッセージを鮮明に受け取れます。そこからどう解釈するかは、その人次第という訳でしょう。




 最後に。
 とどのつまりは語られることはありません。けれども、彼は笑えるように努め、ヘルパーは笑ってもらえるように努めることでしょう。
 もしもその思いが連鎖し、彼らのような間柄において、最期に共に成し遂げられるとするならば。
 死者と生者とが峻別される瞬間は関係性の断絶だけではないことを意味します。
 ひょっとしてそこに、生きた証があったと言えるのかも知れません。

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 制作 ステージなな