MUSICUS! 雑感

 OVERDRIVEの最終作にして瀬戸口廉也シナリオの最新作。

 クラウドファンディングとかそのあたりのことはぐだぐだ書かなくても良いかなーという感じなので置いておきましょう。
 大事なのは後者で、彼の人の言葉で生み出されるせかいとひととをまた味わえることに歓喜しました。

 せかいとひと――ロックと生き方の物語。

 本作は選択肢はそれなりに多く、プレイヤは選択することで主人公がどう生きていくのか、音楽とどう向き合っていくのかを選ぶことになります。
 学業優先で行けば、学生バンドとしてそれなりに明るく満たされた未来が待っていて。
 ライブする今が楽しいと現状維持を目指せば、先の末路を見せつけられてどの強度で今を肯定するのか試され。
 バンドとして上を目指せば、とめどなくサクセスロードを歩んでいき。
 そして自分が好きな音楽を創ることに没頭しようとすれば――そうあれる環境へと到達して、しまいます。
 
 恥の多い人生でした――。
 どのように分岐するにせよ、主人公のロックンロールはある種恥を自覚することから始まります。
 普通からすると続けられない筈のことを継続してしまうというねじが外れ気味で生きる質感に乏しい主人公は、彼を音楽のある人生へと転ばせたロックンローラーにより最初に音楽と物語の錯覚を学ばされます。
 奏でられた音を、どう受け取るのか。拙い音は初心者の幼児の下手な演奏なのか、病気に抗いながら奏でられた決死のものなのか、それはフェイクにより容易に錯覚へと落ち込むあやふやなもので。
 畢竟、主人公自身がこれから作っていく人生と共にある音楽はどういう物語に解釈されるのか――その解釈の主体は人に委ねるものではありません。そうしてゲームプレイの分岐は、かく生きていくのを選択し、そう生きていくのを自分で意味づけし、現実味の乏しかった自分を実感していく旅でした。

 原初の風景でロックは魂!に刻み込まれました。
 ロックは確かに存在し、音は失われない。
 そのロックと共によく生きられてきたのか――ゲームプレイを終えた私が、そのプレイを評価しなくてはなりません。

 作品内で瀬戸口シナリオの特徴の一つである饒舌は本作も健在で、嘘も本当も方便も言葉にされていきます。そして、音楽/ロックが言葉に出来ないものとして両立します。
 そのロックと在り方を今度はどうプレイヤ自身の言葉にするのか――延々と考え続けていける、延々と考え続けても良い、そういう懐の広さは傑作たる所以かと。


 落穂拾い。
 ・どのルートが好きかと言うと、まあなんていうか自分の音楽を追い求めるルートが一番好きでした。あの無常さを追体験する異様なプレイ体験はこのシナリオライタならではかと。
 ・どのヒロインが好きかと言うと、やっぱり三日月ですかね。ポジティブさとネガティブさのバランスが見事でした。
 ・金田は非常にうっとうしいバカキャラでしたが、どのルートでも満たされるバイタリティには感嘆しました。生命力が半端ない。


 以上。更に踏み込んだ感想を書くと長くなるので、ここまででひとまずおしまい。言うまでもありませんが、大層好みの作品でした。
 まだ瀬戸口廉也さんの言葉による作品を味わいたいので、ひとまず次は「BLACK SHEEP TOWN」を楽しみにしています。

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OVERDRIVE (2019-12-20)