時間のかかる彫刻 感想

 原題は“STURGEON IS ALIVE AND WELL...”。1983年に『スタージョンは健在なり』でサンリオSF文庫から出版されました。本書はその改題されたものとなっています。
 内容は多岐にわたっていて、無限のリヴァイアス張りの少年少女サバイバルから皮肉な恋愛小説、はたまたテクノロジーに関するものまであります。発想が変だったり、展開がおかしかったりするのは相変わらず。「不思議のひと触れ」の傑作群ほど物凄いものはないのですが、それでも振り回されました。
 解説にも書かれているのですが、面白いのはテクノロジー観です。「時間がかかる彫刻」「<ない>のだった――本当だ!」「茶色の靴」「統率者ドーンの〈型〉」を並べて読むと描写されているテクノロジーの存在が似通っている気がしてきます。自分は『テクノロジーが高じる或いはロジカルであることで人間の感情といった不確定さはコントロールされうる』と読んだのですが、どうでしょうか。作品レベルでは奇想の拠所でもあった不確定さがコントロールされて正しく割り切られることで、なぜか黄金期のポジティブ宣言にいたったと考えると、良いのか悪いのか、悩む所です。特に「統率者ドーンの〈型〉」の人物の行動の裏づけの仕方は他の作品の舞台裏みたいな部分があり、他の作品も読み込んでから考え直すと興味深そうです。
 男女のリリシズムは「ここに、そしてイーゼルに」と「時間のかかる彫刻」で味わえました。文章の技巧も健在で、特に「ここに、そしてイーゼルに」では技術の奔流に圧倒されました。情景描写も巧みで、「時間のかかる彫刻の」では匂いけぶる果樹園の様、「箱」では緊迫感が出ていました。ただ「自殺」の真っ向勝負っぷりは参りましたが。
 一つだけ文句を言うなら「ここに、そしてイーゼルに」を冒頭に持ってきたことぐらいでしょうか。やっぱり初っ端には重すぎます。


 以上。個人的にベストといえるのは「ここに、そしてイーゼルに」と「時間のかかる彫刻」ぐらいでしたが、それでも十分スタージョンらしさを堪能できる短編集でした。

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 シオドア・スタージョン - Wikipedia