バタフライシーカー 雑感

 凶悪犯罪が多発する地方都市・白織市では凶悪事件の解決に学生も捜査員として動員されるようになっていた。
 学生捜査員・遠野圭介は死体の一部を触ることで死のきっかけの映像を惹起するサイコメトリーを有していた。遠野はその能力を駆使してチームの面々と凶悪事件に関わっていきながら仲を深めていく。やがて彼は6年前に15人の死者を出した蜘蛛連続殺人事件に、再度巻き込まれていく――


 というミステリADV。
 凶悪事件の情報を集め、実際に選択肢で真相を推理するのですが、推理パートの難易度は低いです。そもそも推理失敗がなく、共通項・正誤などで間違った選択をしても消えるだけでデメリットがありません。至極丁寧にヒントを置くのでまず総当たりにはなりませんが、いずれにせよ必ず正解に辿り着きます。この推理パートが面白いかと問われると、そこまでではないありません。そもそもの個々の事件が出来は悪くないですがあまり面白くないので、いまいち推理を積極的にしようという気になれませんでした。
 被害者の持ち物から推理される連続撲殺事件の共通点、広報誌に掲載されたクイズの絵に篭められた仕掛け、etc。ほんと悪くはないんですが、魅せ方が今一つで、テンションが上がりません。
 また物語の最後で披露される大ネタは市全体を巻き込み、意外な共通点が披露されるのですが、うーん、ちょっとばかし悪い意味で無理がありました。
 全体的にミステリおよびサスペンスとしては低張かと。

 
 それででは全く駄目だったかとい言うと、そんなこと決してはありません。
 ヒロインのキャラを立て、特性を活かしながら流れ込むバッドエンドが美しかったです。
 天童優衣――共感能力に優れ、感情を読み取るのに長じたヒロイン。故に主人公が大事に大事に隠し通そうとする心の瑕を切開していきます。

【天童優衣】「……遠野くんの観察を続けて、そのうちに伝わってきたのは――痛みじゃなくて、『寒さ』だった」

【天童優衣】「遠野くんが何もないように振る舞いたいのなら……」
【天童優衣】「私は、遠野くんの敵なのかもね」

 最早望むべくもなかった、彼女でしかできなかった正しいカウンセリング。
 それは奇蹟のような出会いではありますが、では、癒されて剥き出しになった心が再度壊れたら、どうなるだろうか――


 氷室千歳――無垢で偏りのない分析力を活かして、犯罪心理をプロファイルするヒロイン。彼女は予断なく理解してしまえるからこそ、ある意味誰よりも犯罪者の動機に近しくなります。

【氷室千歳】「天童さんは、来栖さんについては何も読めないとおっしゃっていました。何を言えば止められるのか、見当もつかないと」
 氷室先輩は倒れ伏す来栖さんを眺めながら、静かに呟いた。
【氷室千歳】「でも、私にはわかりました。どんな言葉が一番、彼女の心臓に刺さるのか」

 それはひょっとして、いずれ誰しもの罪を犯す源へと辿り着く能力で。それを暴かれたとき、罪人はその言葉に逆らえるだろうか――
 

 というように、上手くいった側の逆、正しい選択の裏の発露にはぞくぞくくるものがありました。
 なので義姉が優衣に激昂した理由には拍子抜けしました。もっと、こう、美しいものを汚す、心をえぐるものであって欲しかった。……いやまあ自分の趣味なだけなのですが。


 以上。評価は低めですが、それなりに楽しめました。

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シルキーズプラス(A5和牛) (2018-03-30)