日本SFの臨界点 中井紀夫 山の上の交響楽 雑感

 奇想寄りのSF短編集。
 良いショートやショートショートが何本も入っていて満足行きました。
 以下好みだった短編の雑感。

  • 山の上の交響楽

 宇宙の寿命と等しい長さの曲を目論まれ演奏するのに数千から万年かかるとされる交響曲の山場を迎えるにあたった起こるドタバタを書いた短編。

 壮大な曲を前にした、スコア通り演奏するために存在していなかった楽器を作ったり、パート譜が間に合わないと頭を抱えたり、演出で指揮者と演者が対立したりという折衝が楽しく書かれていました。
 その上で演奏の時の盛り上がりがSF的に美しい。
 オールタイムベストに何度も選ばれているのも納得です。

  • 殴り合い

 これまで裸の男が殴り合いをしているのをなぜか何度か見かけてきた男が人生を振り返るショートストーリー。
 
 爆笑できる絵面でそういうエモーショナルな展開とオチを見せるのか――と感嘆しました。
 非常に好みの作品です。

  • 例の席

 行きつけの喫茶店には何故か誰も座らない席がある――というあるあるネタから、ぞくぞくする話に膨らませる手つきが切れ味抜群のショートショート

  • 花のなかであたしを殺して

 異種物では奇妙な生殖とその結果としての風俗をどれだけ巧みにそして魅力的に書かれるかが一つの見所なのですが、本作ではその妙ちくりんさはかなり良く出来ていました。
 ここで異種の風俗をそうあるものとして徹底し奇妙なものとしてあえて書かないのではなく、不死となって子供が出来なくなった人間を対比に置かれてしまったことでやや在り来たりになりましたが、それはそれで味となっています。


 以上。実はアドレナライズの方の「山の上の交響楽」を買って積んでいるのでそちらも読もうと思います。

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