ストーカー 雑感

 地球外生命体が地球に遺した異常な空間ゾーン。容易に死に至る奇妙な現象の数々を掻い潜りながら残遺物を持ち帰って売りさばく輩はストーカーと称された。赤毛の青年・レッドリックもまたその一人であった――

 というSF長編。
 古典的名作と名高い作品ですが、ここまで読んできませんでした。
 初読の今回、百合抜きの裏世界ピクニックだ――という因果が逆な直観を得たのですが、それはさて置き。

 レッドリックがメインの一人称視点となっていて主人公ポジションなのですが、ゾーンの奇妙さと変わっていく人類へのおそれを表現する狂言回しになっています。
 語りは異様な語られる対象と絶え間なく罵りが入る語り方両方において殺伐としており、読んでいてストレスが強く居心地が悪い時間が続きます。
 しかしその視点を通してもなお、あるいはそれだからこそもあって、ゾーンとその探索は強い魅力が感じられました。

生きている。ゾーンが目こぼししてくれたんだ。見逃してくれたんだ、あの雌犬が。あの売女がだ。生きているぞ。新米どもにはこの気持ちがわかるまい。ストーカーでなきゃこの気持ちがわかってたまるかってんだ。涙が、頰をつたって流れ落ちる――
  (ストーカー(ハヤカワ文庫SF)(Kindleの位置No.632-635))

 闇に光る<魔女のジェリー>・重力凝縮場<蚊の禿>・或いは或いはまだ名が付けられない異常を、先人のミス――積み重なった死体――によって確立した安全な筈のルートをナットを投げて行く先が生きて進めるか確かめながら這いずって行く道行。
 心と体への負荷がまざまざと伝わってくる書きっぷりであり、読んでいて心拍数が上がっていった次第です。

 そして来訪者が遺したモノによって変わっていく人類を良いも悪いもない現象として語られます。
 レッドリックが自らの子供を<モンキー>と呼び表す、その姿形と振る舞い。
 一度刑務所にぶち込まれて帰ってきたら腐敗を漂わせる父親と同居する顛末。
 あるいはゾーン近くの街の住民が転居しておこる<移民>の問題。
 ・・・理屈はつけられず、解決もなく、ただ人類がそうなった――その畏れ。

 全体を通して、わけがわからない怖さの面白さが堪能できました。


 以上。今更言うまでもないでしょうが傑作でした。

  • Link