短編小説集。
ミステリかつ青春小説となっており、全5編ともに高校生~20歳前半と若めの女性視点から語られます。いずれも派手な犯罪は起きず、日常の――その視点人物にとっての、日常――の謎が基本です。
もう少しだけ踏み込むと、全てで叙述トリックが用いられています。
いずれも一人称の文体であり、その視点人物の認識を通した記述であり、つまりそのままの事実として信用ならないものでした。
事実と解釈の差に謎が生まれており、登場人物たちは悩むことになります。
――妹が1ヶ月前から突然反抗するようになったのはなぜか。
――姉は不仲の妹をかばうような言動を取ったのはなぜか。
――嘘つきと噂される少女が偽りを話したとされるのはなぜか。
ミステリをロジックやトリックの密度の濃さや美しさで評価するのであれば、この短編集はどれもあまり高くないというか低いです。叙述としてはあからさまで謎の提供も不自然です。
しかし本作を少女が謎に出会い、解決するお話として物語った作者の視点のあたたかさは大いに褒めたいところ。
重ね重ねになりますが、視点人物は平凡で未熟で傷つきやすい少女たち。
わたしの生き方は、たぶん、そこまで素晴らしいものではない。普通の人から見れば、普通から、少しだけ、はみ出している。
(卯月の雪のレター・レター(創元推理文庫)(Kindleの位置No.2479-2480))
彼女の視点を通して語られることで謎が生まれています。
生まれた謎は彼女たちの悩みとなりますし、またその前から抱いている精神的に不安定な時期の人生の苦悩と不可分です。
――すれ違いのある"きょうだい"とどう関わるか。
――この職業で良いのか。
――友達とどう付き合うのか。
――内省的なままで良いのか。
そして束の間の泡のような謎が解決されることで、より大きな苦悩の解消のとばぐちに立つことになります。抱えていた悩みはあっさりと解決することではないかもしれないけれども、啓けようとした展望を進んでいけばよりより生き方に繋がっていくだろう――という幸せな予感が仄めかされます。
その書き方と、そう書こうとした意図のあたたかみは素晴らしかったです。
そして、ここにおいて謎や解決そのもの自体はたとえ他愛なくても、この物語はその視点人物が経験したものとして強い意味が生まれていました。追体験として豊潤なものになっていますし、青年期の悩みとして共感出来るのであればより没入の度合いは不快と思います。
恐らくはミステリとしての強さをあえて抑えて、青春小説としての味を損なわないようにした――というのが正しい見方なのかもしれません。
以上。ミステリとしては合いませんし評価出来ませんが、小説としては好きな部類です。
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