織田信奈の野望4 感想

 3巻の感想は→織田信奈の野望3 感想 - ここにいないのは
 この感想の最後で言っていますが、3巻は一介の高校生に過ぎなかった良晴が金ヶ崎の戦いにおいて決死の殿を務めることになる――という非常に続きが気になる所で終わっていました。なのでこの巻を首長く待ち望んでいました。
 その上での本作は期待に違わぬ面白さでした。
 まずは殿戦。良晴が部隊の大将なので、これまで基本的にギャグ調で進んできましたが、戦場のルールとも言えない根本的な問題がクローズアップされます。それは、己の手で己の命令で人を殺すということと、ふとしたことで自分も死ぬということ。

 種子島を渡された指が、肩が、震えている。
 狙いをつけられない。
 これは、ゲームではない!
 もしも自分が生き延びたいというだけの戦であれば、さしもの相良良晴もここで心が折れてしまったかもしれない。
   (P23)

 しかし、彼は今ここで戦う理由/人を殺す理由に既に出会っていて、心に刻まれていました。――“『天下万人のために』”。
 1〜3巻において捨て置かれていた高校生が戦国時代に巻き込まれる混乱を肝心要の所で取り上げ、なおかつこれまでに印象づけていた主従の誓い/戦いに参加する意味によって再度良しと上書きするという手続きがここで完成していました。彼が信奈の野望を叶え続けるのが行動により決定したと言っても過言ではないかもしれません。――見た目においてであり、戦場のテンションも手伝ってであるけれども。
 こうした歴史上のイベントによる心情生成が上手いなあと単に思っていたのですが、再度高校生側に戻り彼の割り切りが解けて心の傷が曝される時には膝を打ちました。その時に共にいた人物の一つの気付きによる大転換を重ねることで、彼による歴史の変革が成功しそうで失敗しそうなあやふやな路線であることがなお一層強化されていたのです。

「それとも、それとも……もしかして先輩は、私の運命を……この私の未来を知っていて……私が辿ることになる、とてもとても哀しい未来を……その結末をぜんぶ知っていて……!」
   (P171)

 以降彼と彼女たちがどうなるかは先の事。恐らくはあの最大の事件がどうなるか――に関わるのでしょう。


 ここまでが相良良晴パートについて。では信奈がどうなったかと言えば、史実に照らして言えば比叡山焼き討ちまで突っ走っていきます。或いは洗脳されて目が飛びます。俗に言えばレイプ目みたいな?
 要は松永久秀無双、お薬大活躍です。
 3巻の後書きで筆者は松永久秀は宇月原史観をオマージュしたと書いていますが、本作では見事なアレンジによる運営がされていました。

「心が辛くなった時には……苦しくて泣きたくなった時には、わが薬で夢の世界にお遊びなさいませ」
「……うん……」
「この松永弾正が、いくらでもあなたさまに幸せな夢を見せてさしあげますわ」
「……うん」

 信奈に薬を処方してどのようにして比叡山焼き討ちまで持っていったのか、何故そうしようとしたのかが両方極めて巧みでした。この松永久秀ならばこうするだろうと自然であったとも言い換えられます。得体の知れない裏切りキャラとしての便利な使い方ではなく、不気味な得体を知らせているからこそのどうしようもなさがありました。
 こうした形ある人物たちが形作る事象――改めてここに流れているのは歴史なのだなあ、と納得しました。


 それからのこと。再会の馬鹿騒ぎは読んでくださいとしか。


 以上。相変わらず面白かったです。次巻では最大の敵かもしれない武田信玄が参戦してくるようで、またまた楽しみ。

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