迷宮の王 1-3 雑感

 サザードン迷宮の10階のボス部屋にユニークなミノタウロスが出現した。敵に飢えるミノタウロスは本来出られない筈のボス部屋から足を踏み出し、冒険者とモンスターを屠り最下層に辿り着いて迷宮に君臨する。かの迷宮の王を打倒するのはだれか――

 というファンタジー小説
 『辺境の老騎士』も『狼は眠らない』も抜群に面白く自分のツボにはまったので絶対合うだろうと手に取り、やはりぞっこん惚れこみました。

 特異な個体、名はなく迷宮の王とだけ称されるミノタウロス冒険者を殺してはレベルアップし、モンスターを倒してはスキルを身に着け、恩寵付きの武器と有用なアイテムを収集し、只管強くなり、強くなった己が力を振るえる強敵と戦うのを希い続ける。
 この物語の主役で主人公ともいえる成長していくラスボスを紹介する導入がまず素晴らしい。見事な災害物の予兆のようで、人もモンスターも死体が消えて残らない迷宮の中で有象の冒険者が行方知らずとなり、腕利きも英雄の器を持つ者も遺留品だけ残っているのが発見されます。自由に迷宮内をうろつくミノタウロスというありえない存在が確かならば、恐るべき敵はこいつだ――と人が認知するまでの経過が実にファンタジーしていて楽しかったです。
 それからもまた更に読書は楽しくなり、倒すべき敵が濃密に語られたのち、倒しうる英雄が立ち上がるのが鮮烈に描写されます。

「はっはっは。のう、トルモン」
「なんでえ」
「いつか英雄が現れて、サザードンのミノタウロスを倒すじゃろうな」
「一人でかい? そりゃ、いくら何でも無理ってもんだ」
「無理なんてことはないんだと、他ならぬミノタウロス殿が教えてくださったじゃないか。いつか、たった一人で正面から、正々堂々あの迷宮の王を倒す人間が出る。案外、王はその日を楽しみにしてるんじゃないかのう」
 (支援BIS. 迷宮の王 1 ミノタウロスの咆哮 (レジェンドノベルス) (pp.202-203). )

 読者も、世界も、ミノタウロスもまた渇望する英雄がどう迷宮の王の前に立ち、どう戦うのか。
 その英雄の姿も、ミノタウロスも、いずれも語られるにたる素晴らしい英雄譚でした。
 
 以上。プロットはシンプルですが、語り口は豊穣。これぞ私の好きな作品だと触れ回りたい快作でした。

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