世界の終わりの庭で 雑感

 遥か未来、嘗ての文明が廃れた世界で、右手のない美しい女性型の機械人形が掘り出された。
 ティフォンの名乗るそれは、彼女を売る世話をする同様に女性型の機械人形に嘗てあった出来事を語り出す――

 という出だしのSF百合小説。
 連作短編形式で、ティフォンの始まりから埋められるようになった経緯が語られます。その経緯は膨大な時間と膨大な距離に満ちており、語られるのはほんのひとかけらを掬ったものになります。それは、女性同士の触れ合いのエピソードでもありました。
 小説家志望のさっちゃんがラーメン屋の娘・ゆーちゃんに小説に関して熱く話すショートショート――最後に突然曝される変わってしまった世界のバックボーン。
 土に埋もれた右手を発見した大学生が、枯れない花を研究する研究者と右手に関して研究する短編。
 あるいは人間が生きる世界の終焉の話。
 SF部分はふんわりしており、機械人形・長命処理、そして星間移動、あるいは世界の終わりをもたらす原因はイメージ優先です。

 ただ、そのイメージが非常に美しかった。

 埋もれた文明が意味が分からず掘り出さられ売られるディストピアの未来に繋がる、歴史と過去。
 とびとびのエピソード、その中でも良く判らない立ち居振る舞いが、後々振り返ると、そういうことなのか、そうだったのか!と膝を打つ、玉突きの魅せ方が上手いのです。歴史として埋もれて忘れられても、影響し合う/し合った、長い長い時と距離の内容と合わさりその縁の測りえない尊さが際立っていました。
 なので全体像を褒め称えるべきなのですが、――それはここまでにしておいて個人的な白眉というか、もう大好きという百合短編に関して話させて欲しい。

 4章に当たる『神の手』。
 土に埋もれた右手を発見した大学生が、大学で枯れない花を研究する研究者と右手に関して研究するストーリー。
 研究者は大学生の家の隣にあった花屋で働いていた娘で、十年ぶりに会った古馴染みになります。
 この2人の関係がねえ!、良いんですよ!!
 おっかなびっくり主体性のない大学生と、マイペースで独特な行動を取る研究者とが噛み合っていく様子はほんとによによ出来ました。
 不可思議な物体を巡りああでもこうでもないと言い合う実験の時間も良いのですが、一日の研究が終わった後に一緒に銭湯へ行くくだりが最高。

 快感の波に静かに揺らされながら、花屋さんを見る。酔ったように赤く湯上がって色艶が増す顔を眺めると、見えてくるものもある。
 思っていたより、花屋さんは若々しい顔立ちだった。
 子供の思い出から年齢を換算すると、三十代に差しかかったところか。不健康な顔色が肌の火照りでごまかされると、別の顔が浮かび上がるようだ。
  (世界の終わりの庭で(電撃文庫)(Kindleの位置No.1839-1842).KADOKAWA/アスキー・メディアワークス

 ここから発せられる大学生の素朴でとぼけた呼びかけが、研究者の柔らかいところに触れた瞬間の鮮やかさよ。
 昔に一度作られたお花屋さんのお姉さんと隣に住んでいた女の子という縁が、今に追いついて新しい関係を作っていく――もう、こういうの大好き。これ以降のじわじわっと仲良くなっていくのも実に良い。
 それにしてもかつて『安達としまむら 8』でも尊いと自分はわめていているのですが、ひょっとしてこの作者は風呂での百合を書くのが抜群に上手いのではなかろうかーーーー!


 さて、おそらく他の作品ともスピンオフしているんだろうなーという痕跡はあるのですが、全部を押さえているわけではないのでちょっと判り切らないところもありました。でもこの作品単体の良さを味わう分にはあまり重要ではないかと。


 以上。良い百合小説でした。私は好きです。

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世界の終わりの庭で (電撃文庫)

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