映画刀剣乱舞 雑感

 時は23世紀、歴史修正主義者の時間遡行軍に対抗して『正しい歴史』を守るため、刀が人の形をとった刀剣男士が審神者によって使役されていた。
 新しい任務は、本能寺の変で信長を救おうとする時間遡行軍の阻止だった――


 という時代劇SF。
 原作ゲームはこれっぽっちも触れたことがなく、ニトロプラスが関わっている乙女向けオンラインゲーという認識程度。本来なら観る縁がなかったのですが、twitterの信頼筋でえらい評価が高く、どうしても気になってしまい思い切って突貫しました。


 それでも乙女ゲー・特撮文法に疎いので楽しめるか心配していたのですが、杞憂であって堪能しました。


 織田信長羽柴秀吉明智光秀の3人の描写――メインは前2人の関係ですが――に絞って描いた戦国時代有数の激変、或いは織田信長本能寺の変を生き延びてしまったらどう正史が壊れるのかのif。
 正史にどう戻すのかという刀剣男士たちの活躍。
 織田信長に関する刀たちの屈託。
 様々な要素を熟練の手つきで処理しており、作品の核となる大きな謎とその開示に向けて収束していくのは見事でした。
 満足のいくシナリオだったかと。


 演技は及第点でしたし、チャンバラ描写は最低限の見栄えはしました。
 異様な髪型や髪の色・服装・特撮描写という本作のフィクション性が良い意味で違和感を備えながら戦国時代と溶け合っていました。ただカップ酒とジャージ姿に関しては23世紀・・・?と脳の処理が追いつかなくて宇宙猫になりましたが愛嬌愛嬌。

 
 そんなこんなで加点方式で言えばどんどんとプラスポイントが溜まっていくのですが、それを脇におきたくなるぐらいに、主役が輝いていて目を奪われ続けました。
 主役――絶世の太刀、三日月宗近
 その宗近様が実に映えていました。
 青を基調とした涼やかな容姿と、1000年以上存在していてもう爺だと韜晦する何を考えているか本心がわからない食わせ者。難しいキャラクタなのかもしれませんが、役者と、画面の映し方で、メインを張る存在として格を爆上げするのに成功していました。
 まず基本的に顔が良いのが正しい。横顔の切り取りが良いし、背中の見せ方も上手い。
 殺陣で調子よく切ったはったやる格好良い時は超格好良いし、ピンチになりやられそうになる時のどうしようもなく無様な動きも優美さが漂って格好良い。
 蒼が桜に映えるので、桜の花びらに覆われて時空を移動する姿も最高。
 心の乙女回路があるかどうか知りませんが、何かがしとどに濡れました。
 もう何を喋っても何をしても、キャーキャーと指さして囀りたくなりましたね、ええ。
 あとあと、薬を飲んだ時のあの回復具合の演出はほんと反則的にすばらでした。


 だから。
 涼やかで執着を主人に対して以外見せなかった彼が、秘めていた真実を語る重さがより一層増したと思います。
 刀が人の姿を形取った彼は言います。
 ――人を愛している、と。
 お前は正しい歴史のために死ぬべきだと言われた魔王は言います。
 ――儂も人だ、と。
 その問答の最後の応えに痺れました。
 "正史"を守ることの人間への愛と、あまりにも人間離れした非人間性と、内包するエモーションがやばかったです。


 以上。良い作品でした。

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 OHP-『映画刀剣乱舞』2019年1月18日公開