END END SUMMER 感想

 少女は病室で目覚めると母親の死を聞いた。少女は認められずに自宅に逃亡し、延々と誰にも知られずに暮らそうとした。海の底に沈んでいくような生活の中、突然見知らぬ青年が訪れ、何故か見張られることになり、10日間の共同生活が始まった――

 
 という内容のADV。フリーゲームです。
 少女(10歳)と青年とのよく知らない者どうしの共同生活という単語自体を取り出すと少女漫画によくある感じのによによしてしまうツンツン、デレデレを思い浮かべるのですが、色々と破壊力がありました。
 控えめに言って、結構――重いです。


 文章自体は平易で伝わりやすいのですが、その為尚の事書いている内容が否応なしに懐中に飛び込んできます。序盤だけでも、母親を失って、認められない心やもう母親の帰ってこない家で一人あてどもなく暮す心情がヒリヒリとそこにあります。加えて、夏休みに一人で工夫しながら暮らす、そんなジュブナイルでよくあるシーンが最高にエッジを効かせられていて、導入の時点で以降のお話の支度は完璧に整えられていました。最適な手続きを踏み、それまであった日常との断絶という手垢まみれのそれを語る支度、です。春臣という今まで信頼していたお兄さん的存在との解離さえも行われていますし、もうこてこてです。


 少女と青年が出会って以降、お互いにつつき合うハリネズミのような関係から徐々に打ち解け合っていくというオーソドックスな流れになるのですが、これまた不安定なものを不安定に書けている少女の心情を通して語られるため、読んでいて一緒にぐらぐらしました。
 確かにぐらぐらするのですが、彼らの言動自体は、“背の低い少女の頭に肘を乗せてからかったり”、“寝顔を見たり、見られたり”、“いなくなったと思って青年が焦る”などなど紹介するのがもったいないほど萌えるものばかりで、冒頭で予想するようなによによが楽しめます。
 打ち解けてからはダダ甘の一言です。ご馳走様でした。


 震えたのは彼女たちが進んでいくようになった以降です。少女と青年は関係性を構築して行きます。関係の成立に彼女たち以外の介入を消去した徹底的なモノローグとダイアローグの饗宴は凄まじく、翻弄されました。
 水がイメージの背景が多用されているのですが、それも効果的でした。
 そうして構築される関係は共依存と片付けられない、何かがあります。どう思うかはプレイした人次第でしょう。


 イメージ画像は美麗で、様々なシーンの想像をかき立てられました。心情描写の伝導の妨げとならないため、ゲームに立ち絵が無かったのは逆に良かったんじゃないかと思います。


 以上、楽しませていただきました。幾分暗めですが、お薦めです。
 なお最後に続編が予告されます。その煽りは完璧でした。どうなり、どう語られるのか、非常に気になります。出来れば作って欲しいですねー

  • Link

 Melt-Self


 2009-08-05 - storyholic
 プレイするきっかけになった感想です。