SeaBed 感想

 2016年1月25日からDL siteでオンライン発売されていたノベルゲーム。
 寡聞にして知らなかったのですが、最近百合作品の名作という情報を得て、気になったのでプレイしてみました。
 一月ほどかけてクリアしたのですが、なるほどと。
 噂に違わず、百合ミステリとして名作でした。
 

 ミステリの路線としては何らかの事件を解決する系統ではなく、描写されているものの何が真実かを読み解くものでした。
 虚実真偽入り混じった文章描写を吟味していくことになります。


 その中で、まず主要2人の女性同性愛描写は素晴らしいの一言。文句なし。最高。
 5歳から知り合った幼馴染で、長じてデザイン事務所を共同で開く付き合いの長いカップルなのですが、性格の理解の度合いと距離感が理想的です。
 アクティブで自分の気の向くまま進んでいこうとする貴呼と、冷静沈着で隙の無い佐和子。彼女たちの凹凸は奇蹟のように合ったとされるのですが、その通りで嗜好と行動との兼ね合いが噛み合っていました。
 貴呼は佐和子が必ずサポートしてくれると知っていますし、佐和子は貴呼が連れていってくれる新しい場所を心から楽しみにしています。
 彼女たちが過ごす日常も格別で、同棲するマンションの一室で風呂上がりに『高級貴呼ソファ』とか言って膝の上に乗せたりするどうでもいいイチャイチャだったり、あるいは旅好きであって南の島で海洋リゾートを楽しんだりする空気だったり。
 そういう思い出が語られるのを心待ちにしていました。だってそれらは本当に輝いていて。
 一例を上げれば、

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 この佐和子の「まあ、いいわよ」という台詞が実に良くてですね。さらっとした台詞と仕草で彼女たちの関係を如実に示していました。
 

 では彼女たちが生きてきたことと、これから生きていくにあたって、何が真実なのか―――何が隠されているのか、ということになります。 
 手帳に書かれた文章と、口伝される台詞。
 忘れられた記憶と、思い出せない忘却。
 見ている視界と、聴いている音。
 先に進むにつれて、虚と実・真と偽の境界があやふやで、溶けていくようになっていきます。
 ここで作中の登場人物にとって重要視されているのは真実の正しい解釈だけではないことが大事で、よく判らないことも前提に踏まえてどう生きていくかというところに問題は昇華していきます。
 或いは生きたいように生きるために、好きな解釈をするともなりますし、そう書かれます。
 その人なりであればどう選ぼうと構わないという姿勢を強く肯定する台詞に以下のようなものがありました。

 「人は意識がなくてもそれほど変わらずに生活できるよ」と楢崎は肯定する。

 まさにこのあたり、選択をする主体であると明言されるあたりから、ゲーム内描写されるキャラクタは本当に活きていると思うようになりましたね。
 そこまでキャラの独自性が描写されたと思ったのだから、最後の選択が私の心を打ったのは当然だったかもしれません。
 

 百合とミステリ、いずれも本分で。
 最後まで本筋――佐和子と貴呼の関係性に奉仕されます。
 物語の最後の一文まで含め、見事なお点前でした。


 以上。重ね重ねになりますが百合ミステリの名作。作品を知るのは遅れましたが、知れて良かったです。

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 OHP-seabed


SeaBed




 考察で参考になったブログ→百合ミステリーノベル『SeaBed』(paleontology)が面白かった話 - いきるちから