淡島歌劇学校合宿所――通称"寄宿舎"に集い歌劇団員を目指す少女たちを描いた漫画の3巻目。
今回は新興宗教を信奉する家に生まれた娘の葛藤を描く『大久保あさみ』前中後編、学生時代にトップを張り合ったライバル同士の奇縁を取り上げた『山県沙織と武内実花子』前中後編、そして有名芸能人同士の娘の入寮する短編『柏原明穂と田畑若菜』が所収されています。
どれもこれも、心にすっと沁み込む良い作品でした。
舞台に立つことを望んで集った少女たちが、それぞれの割り切れないものを割り切れずに抱えて生きていくのを伝えてくるのです。
割り切れず――あるいは割り切らず。
画と口に出す言葉と心に秘めた想いで、少女たちの在り方が露わになっていきます。それは少女自身が他人に伝えられない、言い表しにくいもので。
(No.61)
お話が進むにつれてその時間経過は、主役の年代によって変わってくるのですが、心の中に積み重なったか、これから積み重なっていく澱でした。前巻では強く前に出た"心残り"でもあるのかもしれません。
しかし本巻で取り上げられた短編ではどの少女も瑕になる悔いを溜めたままでは終わりません。
彼女たちはとどまらず、先へと一歩踏み出していくのです。
内面を知りえない他人からは些細な吐露なのかもしれませんが、読者としてはその表出に辿り着いた尊さを大事に内にしまっておきたいと思わさせられました。
以上。前から2年の間隔が空いた新刊でした。きっとこれからも時間がかかって刊行されていくのでしょうが、それを心待ちにします。
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HP-淡島百景/志村貴子
<既刊感想>
淡島百景 2 雑感