東京アリス 感想

 フリーのADV。

 欧太は3日間も休んでいる幼馴染のありすの様子を見るために団地の上の階にある彼女の部屋を行こうとした。しかし途中で不思議の国のアリスのアリスめいた服装をしたありすに出会った。奇妙な格好と様子のありすに導かれて団地の裏に行くと――、薔薇に覆われた美しい庭に出た。そこはもう既に不思議の国。ありすが作り出した空想だった。そして欧太はありすの不思議な世界に紛れ込んでいく――


 という冒頭。題名とHPの絵からだいたい判るでしょうが、不思議の国のアリスがモチーフになっています。
 


 ヒロインに関してはまずそうですが、キャラクタやキータームにも不思議の国のアリスのものを流用されていて、三月ウサギやハンプティ・ダンプティ、イモムシなどが出てきます。が外見内面ともども大きく違っています。具体的に言えば150度くらい斜め方向で、例えばイモムシの着ぐるみをきたおっさんが吸えないタバコにむせながら哲学的なことをのたまってきます。
 語り手である欧太は想像力に乏しく小心者で突っ込み屋、つまりは至って普通の少年で、すので、そんな変なキャラクタと交わす会話はみょうちくりんなものになるのは必然です。コミュニケーションが成り立っていないんじゃないかというぐらい噛みあいません。このコミュニケーションの成り立たなさ具合は良く書けていました。ダブルミーニングなど言葉遊びもそれなりで、アリスっぽい雰囲気はそこそこ出ていました。


 さて。コミュニケーションがとれず、何がなんだか判らず翻弄されながらも、常に欧太に対して問い掛けが繰り返されています。

 「オマエは何故アリスがこの国に迷い込んでしまったのかを知らなければならない」

 この知れという問いは知識に基づいてとるべき行動をとれという強制でもあります。何故ありすはこの世界を作り、この世界に入り込んだのか、そして何故欧太がここに来なくてはならなかったのかを知り、そしてありすを目覚めさせろ、と。

 「・・・アリスを夢から目覚めさせることができるのはオマエしかいないのだから」

 たとえ答えがどんなに残酷でも現実を知ろう、夢から覚めさせよう。そう苦味を飲み込めるまで少年は走り続けるのをプレイヤは多数の選択枝の選択を通じて見届けることになります。通過するのは例えばかつて幼い頃に交わした少女の会話で、夢を見るだけでは生きられないし、夢が無くては生きられないという、そんな始まりだったりします。或いは不思議の世界のとある住民から、ありすへよろしく伝えてと託されたりします。
 ひっくるめれば欧太とありすの人生で、語られなかった日々にも輝ける日常があったのでしょう。だからプレイしてきて知ったプレイヤは、その答えとその決断とその行動と全てがあまりにもありきたりなものでありながら、でも彼らにとって尊くあったと納得出来ると思います。
 オーラスの裁判は単体でも盛り上がるのですが、繰り返しプレイすることで裁判への登場キャラクタが増える工夫もされていて終わりに向かって行くんだなあと余韻が増しています。
 また東京でなくてはならなかった理由も綺麗でした。


 ヒロインのありすについて言及すると、内面外見ともども実にキュートです。特に性格は可愛く仕上がっています。芒陽としたり、小悪魔めいたり、ヤンデレったり、嫉妬したり、くるくる変わる天然さに時めきました。
 
 外見は絵を見れば一目瞭然ですが、淡い感じで良かったです。動く表情も最高でした。それに幼女の頃の可愛らしさは筆舌に尽くしがたいものがありました。見て悶えろ、と言っておきます。

 
 攻略はおまけシナリオを見るのがかなり大変な使用になっています。全シナリオを見た上で50枚の神経衰弱をクリアしなくてはなりません。デフォルトでは時間制限がシビアなので、何度も繰り返して無理ならHPの掲示板に上げられているパッチを当ててみればいいんじゃないでしょうかね。


 なお全クリしたら製作者の方の“2010.03.07. 13:37”の日記を読みましょう。作品に込められた思いが丁寧に解説されています。


 以上。通して楽しんでプレイしました。お薦めです。

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