しがらみとかクリエイティブ魂とか社会性皆無のコミュニケーションとか面倒なことには事欠かず、でも最後には才能と実績がものをいい、売り上げという目に見える形で結果が出る。そして当たれば金のリターンはデカい。たとえて言えば目の前にあるのは荒野で、何も得られず、何もかもを失うこともあるのだった。それでも、何かを求めて少年少女たちは動き出し、エロゲを作っていく――。
そんなこんなのエロゲ作成を扱ったADV。シナリオ:田中ロミオ、原画:松竜と、企画が発表された時にはクロスチャンネルコンビの再結成で話題になったのは記憶に新しいです。
業界の闇をカジュアルに――たまに黒過ぎでドン引きですが――書かせては田中ロミオの右にでるものがいないので、人選としてはほぼほぼ完璧だったのではないでしょうか。
さて、エロゲ作成を扱った過去の名作にこのような台詞がありました。
アタシには、アンタを連れて行く覚悟がある。
アンタがその気なら、一緒に見に行く準備がある。
最低な場所の最高の景色を。
堕落する準備はOK?
(『らくえん』より)
その時代は遠くなりましたが、コアになる部分は変わらないでしょう。グループでのものづくりの楽しさと、つらさはギャルゲ・エロゲ作成に特化したものではないでしょうが、これは自分が何者であるかをオタク業界のエロゲ作成に選んだ人々の物語であり、選んだ理由なんて、そこまで重要ではありません。どう生きていくか、が問題で。
そのエロゲ業界でどう生きていくかを主人公たちのブランドと、その他関係するブランドで、千差万別に描かれていきます。エンターテイメントに収まる範囲でマイルドになっているところが多いでしょう。冗談で済ませないところはゲームにならないでしょうしね・・・・。
でもエロゲの新米シナリオライタの目線を通して、先陣であるキャラの濃いシナリオライタらに接するのはかなり楽しかったです。あと絵師とか声優とか、うわあといいたくなる地雷原をスキップしながら、蘊蓄に落ちずほどほどに語るのは流石かなと。
エロゲ作成の大まかなふいんきと、業界のなんちゃってふいんきを伝えるのは成功していると思います。間違いなくディープに書こうとすればどこまでも描けるでしょうが、楽しむ範囲を広くするならこれぐらいで良いんじゃないかなと思います。
またご都合主義もぎりぎりセーフかなと。主人公が初めて描くシナリオに悩んで難産しても商業レベルのそこそこのレベルに位置するとかファンタジーでしょう。なんちゃってライタと取るのもありでしょう。ただ、あまりちやほやしないノリなので流されることが多いですが、この主人公のシナリオライタとしての才能はすごい部類に入ると取るのが正解かもしれません。まあ大した問題ではありませんが。
業界のライトな描きっぷりは楽しめましたが、では美少女恋愛ADVの出来としてはと言うと……うーんという感じ。
個々のレベルが低い訳ではなく、逆にかなり高いです。
まずキャラの文章による肉付けは文句なし。どのキャラも魅力は十分。掛け合いもまた同様です。切れ味は今回はそこまで鋭い訳ではないですが、テンポ・ノリのよさはまだまだ天下一品です。制作中のちょっとしたイチャイチャもクオリティは悪くありませんでした。田中ロミオによるゲームの文章を堪能して幸せでしたね。
絵もまた良し。時々あれっ?と思うものの、ほぼほぼ美麗です。
声優の演技もかなり良質でした。
欠点として上げられるのは、短い・締めが残念の二つです。
個人的に最近短いのはそこまで悪いことではなく、さくっと終わらせるのは良いとは思うのですが、この作品が9800円の定価のボリュームかと問うと、残念の一言。
また短さは締めが残念とも関わっていて、ほぼほぼ僕らの戦いはこれからだエンドで終わります。それはきっと間違いではないでしょう。業界に入るとばぐちに立った若々しさを取り扱っており、彼らの戦いはまだまだこれから始まるのは正しいです。ある程度の長さがあれば、その結末をもっと寛容に許容できたでしょう。しかしこの長さでわりと尻切れトンボだと、もっとこう、決定的な成果を描くまでやろうぜと思ってしまうのが人情です。黒田砂雪ルートのエンディングとか正気を疑いましたね。多分狙い通りではあるのでしょうが、その狙いが気に食わないというやつです。
上記のように要素要素の質は間違いなくこの上なく高いのですが、欠点がちょっと印象悪すぎであり、全体としての評価をかなり落としています。かと言って完全版を出すと落ち着くかと言えば、これはこれで綺麗にまとまっているので、どうかなと思います。続編かFDが出るのは間違いないと思いますので、それ待ちにしましょう。
なお、ルートとして一番気に入ったのはテルハルート。キャラの好みとしては一番下ではありますが、このルートが最もエロゲ開発物として躍動していました。
以上。まとめると、締めがいまいちなのでもやもやするけれども、田中ロミオのテキストと松竜の絵は楽しめた、となります。田中ロミオの文章を読むこと以外の目的ではあまりお薦めするものではありません。
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