ゼロ・グラビティ 雑感

 ハッブル宇宙望遠鏡の修理ミッションに参加した女性科学者がデブリに襲撃され、衛星軌道上に投げ出された――という内容。
 着の身宇宙服のみで放り出された極限の状況下でいかにして生き残るか、というシチュエーションにひたすら淫して展開されます。残存酸素9%の宇宙服で、体制維持できず回転したまま宇宙の藻屑になりかける冒頭から掴みは完璧。壊れたスペースシャトル、壊れたISS、発進しないソユーズ、90分ごとに遅りくるデブリ群――息をついたと思ったら、即座にまた命を懸けた緊迫した場面に追いやられます。観ていて心が揺さぶられて疲れる程に、極上のアトラクションでした。
 難点としてはよくもまあ何度もぎりぎり摑めるものだとか、よく考えると地味だとかあります。おそらく見るたびに魔力は落ちていくでしょう。ただ、初回一見の見事さに酔いしれたのは幸せでした。
 なお、この映画は映画館の大スクリーンで観ることを切にお勧めします。別にIMAXでなくてもよく、近所の映画館でOK。
 映像の静と動、音声の寂と騒。物理法則に則った外連味はせっかく劇場での迫力を味わえるうちは享受しないと勿体ない。宇宙空間では外力を付け加えられたらエネルギを減衰する要素はなくひたすら等速直線運動を続けるという剥き出しになった慣性の法則の静と動の目まぐるしさ大きな画面で映えますし、その上と下で泰然と浮かぶ青い地球の美しさといったら。
 役者は3人が姿を現しますが、基本2人しか顔が出ず、残りの1人は背中を見せて踊っているだけです。なのでサンドラ・ブロックの独り芝居を見続けるのですが、演技に何ら問題なく、キャラクタへ良い没頭具合でした。あとはまあジョージ・クルーニーの渋格好良さに惚れろとだけ。
 以上。シンプルイズベストを行くシチュエーションと衒いの無いど真ん中の剛速球の宇宙映像、文句なしの快作でした。


 以下妄言。
 それにしてもこのお話、展開の要請上とは言え、結構良いことがありません。地べたで悲劇があり、宇宙に出てみれば即死待ったなし。生き残るための強い動機付けは生存本能に投げかけるしかなく、帰るべきHOMEも何処へやら。祈ろうにも祈る暇さえないぐらいに生き疲れています。アメリカンが理想とする像は遠いです。そんなただ一人が、どうしようもない宇宙に包まれて、生きるしかないその在り方は鮮烈で。姿勢制御のされないままの大気圏突入に奇跡の一つぐらい起こってもいいんじゃないかと。
 だから。
 海が、

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 映画『ゼロ・グラビティ』オフィシャルサイト

 

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