治安が良いと思われていた街・桜ノ杜の裏では失踪や殺人など不穏な事件が多く隠されていた。主人公は悪霊と幽霊を見られる能力に目覚めたことから桜ノ杜に起きる悪霊による事件を防ごうとするサクラノモリ・ドリーマーズの活動に参加することになる――
本来なら、スティーヴン・キングにおけるデリーのように一見普通の街の下では悪徳が渦巻いていた――というある種「街」が主役で、学園生が異常な世界と事件に巻き込まれるという、ちょっと捻ったモダンホラーとして楽しめた作品でした。
"赤い悪霊が宿った人は殺人鬼となる。
青い悪霊が宿った人は死ぬ。
赤い悪霊が宿った人が殺した人間は消える。
青い悪霊が宿った人は五分五分の賭けに勝つと死から免れる。"というルールで、悪霊によって起きる事件とその解決を目指す、というのは大変好みでした。……本来なら。
それに同じ様に悪霊が見える美少女たちとチームを組み、容疑者の夢に潜ってヒントを集めて真相を暴いていき、その過程でヒロインと仲良くなっていく、のも趣味ではあります。……本来なら。
修羅にならされた主人公と虚無の天敵との配置と、長い時をかけた生死をかける攻防は見応えがありました。……本来なら。
非常に残念なことに大きい瑕疵があり、諸手を上げて楽しむには躊躇をしてしまったというのが実際です。
というのもこの作品は、他作品からの設定の引用をどこまでのレベルなら許容するのかを試すものでした。
そもそも論で言えば、クトゥルフは言うにおよばず、ホラーのジャンルは引用に緩い面がありますし、他作品の改変をメタ的に楽しむ文化はファン気質をくすぐるものです。何処まで作品の本質に関わらせるのかは制作者の筆加減にかかっていますが、極端に言えば全てを借りても新たな面白い作品になっているのならば大いにありという判断も個人的には妥当だと思います。
個人的な引用のあるなしの判断基準としては、元ネタを知ってなおそれが楽しめるか、その設定に根幹がよりかかり過ぎていないか、あたりでしょうか。元ネタを持ってきて、その面白さで勝負するなら、それはまあ剽窃でしかないかなと。
なので、左手に悪霊が宿って名付けて"リカー"……はお遊びで流して良いんじゃないかなと思います。もろに寄生獣オマージュではありますが、やりたかったんだなとほのぼの見守る余地がありました。
あと悪霊――ボダッハと主人公の生い立ちに関してはほぼほぼ『オッド・トーマス』なのも、まあぎりぎりかなと。一応上記のように青と赤で味付けしていますし。
じゃあ次。夢には階層があり、とあるナビゲーターにより潜ることが可能である。夢の深層に潜ると現実世界と区別がつかなくなる。現実世界に戻るには何らかの気付きが必要である。 気づかないと一生眠り続ける可能性がある。
――それなんて『インセプション』。
改変としては悪くないと思いますよ? "水切り"の使い方なんておしゃれでした。ただこれに関してはアウトかセーフかで言えば、個人的にはアウトの判断でした。オリジナルの面白さをそのまんま拝借しすぎでしょう。法には抵触しませんが、制作者のモラルとしては疑問符をつけたいところです。
第二部のヒロイン毎のシナリオは趣深くはありましたし、意外に充実したエロとか、プラスに思える点はありましたが、設定への悪感情を覆すほどではありませんでした。
以上。残念と捨ておくには端々に魅力があり、なんとかならなかったものか。
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