霞外籠逗留記 感想

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 数多の部屋がつぎ足され。中に水路が張り巡らされた巨大建造物であり、ふとしたことでありもしない部屋・廊下・声が存在する不可思議な旅籠。
 その中を練り歩く中盤までは、小説・ゲ−ム問わずマッピング物が好きなら忘我の境地に達することでしょう。


 以降の展開は旅籠で知り合った女性と仲良くなっていくというベタなものですが、全てをクリアすると、ルートの終わりに語られる渡し守の言葉とBAD ENDから示唆される裏の物語が最終的に現れます。
 詳しく語るとネタバレになるので止めますが、山あり谷ありの果てに辿り着く、全ての始まりとなったあまりにも重い人の情に心を動かされました。矛盾があり、相反するものを共に備えているからこそ情なのですが、三人称文体によって“私”ではなく彼らの物語であることを示されているからこそ、逆にそこに説得力が出ているんじゃないでしょうか。というのも一人称であったとしたらプレイヤが自分の思考を物語に当てはめてしまい、客観性を欠く可能性があるからと考えました。

 
 文章は体験版をやればわかりますが、大仰な言葉使いで、強調に助詞で終わる泉鏡花ちっくな浪漫文体です。時折破綻するのが気持ち悪いですが慣れればいけます。
 散りばめられたブラックユーモアはエロゲに望むものとしては最上等と言っていいでしょう。


 絵はレベルの高低があるものの、目に力があり、雰囲気に合っていました。


 システムはVariable-Read systemと称していて、文字の大きさ・画面構成などが変えられます。ただし変えられると言っても、快適に読もうとするとあまり選択の余地がなく、使い勝手はそれほど良いとは感じられませんでした。他では音楽のバックグラウンド再生が出来るようになっているのは嬉しい変更でした。


 プレイする際の注意点としては必ずBADENDとなりそうな選択肢を後回しにした方がいいでしょう。そちらの方が余韻が残ります。特に最後の最後が。


 以上。“情の作品”という言葉が相応しい、こじんまりとした逸品でした。

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  • 以下、キャラごとに戯言をば。

・令嬢
 憤怒のお嬢様。主人公を寝とろうとした相手を叩きのめすシーンはCGと合わせて珍味でした。


・琵琶法師
 純情な世間知らずで一途な少女が懐いてくるのが好みならきっと気に入るでしょう。同時にそうでありながら芸術に身を捧げる、という芸術の陰影を万全に書きえていたら、ひょっとしてありえない光景を見られたかもしれないと妄想しました。


・司書
 鬼女。なぜかルートの構成が短編集になっています。ネタ・オチ普通で、ルートの筋も陳腐なのですが、その工夫で飽きずに最後までやる気になりました。


・渡し守
 粋でいなせな姉御――と思いきや、やはり片面般若。舟を出るシーン、手を伸ばすシーン、主人公に胸を開いているだろうシーン、はっちゃけてからは怖すぎです。


・お手伝いさん
 皆同じ顔で、勝手に増えたり減ったり、死んだり生き返ったりする変な存在。ただ同じ顔だからこそ、性格の差が印象的に感じました。お気に入りは医者のお手伝いさん。家に欲しい。


・総括
 主要人物は姉の因子を誇張した存在と言ってよいでしょう。怒りと優しさ、他者への依存と自己の犠牲、人への恋愛と殺害――この矛盾を併せ持つのが人なのだと。