夢の国から目覚めても 雑感

 百合漫画の同人サークルの片割れである有希は相方の由香に恋をしていた。しかし由香は彼氏が居たヘテロであるため心に秘めていた。しかし共に同人活動を続けるうちに想いは募っていき、ふとしたことから丈をぶちまけることになる――
 
 百合小説。
 前編ではすれ違っていた想いがぶつかりあい結ばれるまでを、後編では結ばれてからについて書かれます。
 この間の作品内での2人の変遷が非常に特徴あるものになっていると感じました。比喩としての夢から覚めるが繰り返されるのですが、自覚にせよ無自覚にせよ変わっていくものを綺麗に取り上げて描写されているのです。
 有希――ビアンで、髪は短髪、服装もジーンズやパンツを好む、大学生。
 由香――ヘテロで、よくある女性らしい服装や化粧に長けていて、デザイナーとして働いている。
 そんな彼女たちが結ばれ、同棲するようになります。
 かつて住んで慣れていた場所から離れたことへの郷愁だったり、今住んでいる場所が帰るところになり待っている人がいるという未知の感覚や性格と家事のやり方の異なる人と生活を共にする苦労といった一人暮らしから変わった同棲初期のもやもやする感覚をヘテロの普通の女性に近い由香から語られます。
 そして由香視点は続き、有希/女性をこれまでの男性と比べて肉体的な差を明確に感じ、肉体的には物足りないし、興奮を掻き立てられないと明言されます。なおその上で――有希を好きなのだとも。
 社会人として理不尽なことやオトコどもをやり過ごす日々にダメージを受けながら、女性が恋人の女性として、誰から構わず公言しうる強さなど持ち合わせない普通の人間として、どう自分らしく生きていくのかゆっくりと向かい合いあっていきます。
 こうした恋人の片割れとして成熟していく過程が一人称で伝わってくるのは素晴らしい筆致なんだと思いますね。

 では有希は?
 彼女はそう望んだように、現代社会の女性らしい女性へと成長していきます。

 ──でも。
 その背中を見ていると、なんだか泣きたくなってしまう。
 わたしは本当に、有希がどんな有希でも好きだったんだよ。喪失感とともに思い出す。
  (宮田眞砂.夢の国から目覚めても(星海社e-FICTIONS)(p.167))

 その成長は正しいのか、正しくないかのジャッジを要するものではありません。
 ただこれまでの由香の姿勢からすると酷なことだよねという誰にも言えない心の痛みが伝わってきて、胸が締め付けられました。

 最後に2人の姿勢の差を百合創作への向き合い方をもってわかりやすく描写して物語は閉じられます。彼女は夢から覚めてもう夢を見る必要はないのだし、彼女は夢を見させたいと願ったのだと。
 判りやすすぎるけらいもありますが、綺麗なオチだったのではないでしょうか。

 なお甘いというか都合の良い部分はかなり都合が良いです。男性百合作家のヒロさんの存在と反応とか、ラストの商業への道とか。
 でもまあそういうありうる/あって欲しい甘さは嫌いじゃありません。


 以上。まあまあ面白かったです。

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