萌えるAI部に所属する主人公・桐島零一は<強いAI>アペイリアの開発に成功した。そして自我を持つAI・アペイリアと直接触れ合う方法を見つける過程で、アペイリアが完全没入型VRMMO『セカンド』を生み出してしまったことから、彼を取り巻く世界は変わっていく――
という近未来SFアドベンチャー。
出だしはなんと顔射シーンから始まります。未来から「君の飛ばす精液は4m20cm飛ぶ」というメールを受け取り、好奇心旺盛な零一はメール通り実践したところ、揺らぎによって少女の顔にかけてしまう――というもの。ここに幾重もの伏線が張られているのですが、さておきましょう。
抜きゲではないエロゲでは最速に近い顔射に驚いたり吹いたりするのも束の間、AI開発・AIの限界・DNAコンピュータなどなどの説明をテンポよくこなし、あっと言う間に<強いAI>開発成功へと進んでいきます。
強いAIの世界初の出現――<技術的特異点>のきざはしが部室で何気なく起きるというのはジュブナイルでも良くあるネタなのですが、何度繰り返されてもワンダーに溢れているのでしょうがありません。世界の片隅で、何の波乱も、何の予兆もなく、世界の変革が起きる。これぞロマンかと。
以降もかなり骨太なストーリー展開が繰り広げられます。
観測問題――今ここを上部概念に住む観測者によって観測されることで下部の<この世界>が規定される。
時間移動――観測者によって強制的に同じ時間軸を繰り返させられる。
仮想現実――主人公たちが生み出した下部世界<セカンド>がデスゲーム物となり、下部での死が上部世界での死に直結する。
限定された条件――繰り返される時間で記憶は一度リセットされる、巻き戻る端境の部屋で送るメールによって呼び覚ます記憶を選べる。
etc、etc、魅力的な要素が多々。
個人的におおっと感激したのは、<クローン>と言う身も蓋もなくて便利過ぎる技術が上位と下位、PCとNPC、強いAIという観点からトリッキーに使われていたことです。
これ以上はネタバレになりすぎるので踏み込みませんが、そうした要素要素に加え、物語を推進する魅力的な謎も事欠きません。
上位の観測者をどう欺くのか?
上位の観測者は誰か?
そして世界は一元か多元か?
最後まであまり飽きることはないかと。
なお、ラストシーンは色々と異論があるでしょうが、個人的にはああいう仄めかしをやりたくなる気分が凄い判るので、ありとしたい。
しかし強すぎるストーリーによってキャラが割りを喰っているのはマイナスに見えてしまうことが多々あります。
プレイしてみれば判りますが、時間・世界に関しては極めて説明的です。
概して退屈かと言えばそんなことはありません。セカンドでVRMMORPGライクな活劇を重ね、タイムリープのヒロインルートの周回でかけがえのない一度を繰り返してしまうという悲劇的なエピソードを重ねた上で、満を持して仕掛けを解くので全体的にはダイナミズムはあります。
ただ動的さがあるにはあるのですが、時間と世界の絵解きがほんとグラフメインに長々と展開されるので、うんまあ、ちょっと辛いかなと言わざるを得ません。好きなのですが、ADVならもっと工夫してくれと言うのは贅沢ですかね。
欠点に関してもう少しだけ続けると、作品内整合性がキャラクタの魅力の上に来ているため、キャラ物としては弱いです。これは何を大事にとるかですが、キャラクタの魅力ももう少し何とかしてくれても良かったかなと。
アペイリアちゃんは可愛いですが。
あと世界は兎も角、<社会>の描写が非常に乏しく、折角の世界に奥行きに足りません。
自宅環境、高等学校での授業内容、病院での医療レベル、移動手段といったインフラ群がいまひとつ把握しにくく、書き割りめいています。
VRMMOの薄いファンタジー世界描写と、質量的にパラレルに語られると取るのが吉なのでしょうが、あらゆる意味で現在からの飛躍を書くなら、きちんと現在を定義して欲しかったかなと。
気にしだすとそれなりに欠点はあるもののエンタメ的には十分面白いです。 とりわけ、勃起と射精を武器とする主人公の活躍は捧腹絶倒で、一見の価値ありです。
題材的には手垢にまみれているので新規性には欠けますが、類似の傑作群に並ぶ余地は十二分にありました。
ただ傑作になるには細かい処理のスマートさが足りないといったところかなと。
以上。全体的には上手くまとまった秀作でした。
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