裏世界ピクニック 雑感

 くねくね、八尺様、きさらぎ駅、時空のおっさん、MIB、etc、ネットロアで語られる奇妙な存在が跋扈する危険な裏世界を2人の女子大生が探検していく――という短編集。


 キャッチ―な表紙につられて百合なSFを求めて、無防備に頁をめくっていったのですが、やられてしまいました。あまりにもガードを下げ過ぎて突撃したところに、ガツンと一発。
 この小説、甚だ怖かったです。


 物語がある程度進んだ絵解きに近づく場面で、この言葉が登場人物から漏らされます。

 "怖い"は作れる
      (Kindle の位置No.2540)

 その言葉通り、この小説自体が見事に世界に恐ろしいものを息づかせていました。
 例えば、顔の見えない女を置き去りにしたのを批判したら語られる"必ず五階から女がエレベーターに乗ろうとするから乗せてはいけない"というルール。
 例えば、居酒屋でお釣りを返した時に「くびりやらいので、あぶらがらすが き ます」と突然意味の判らないこと場を連ねるようになる。
 例えば、裏世界から現実世界にかけた電話に録音された言葉は自分たちが発した言葉と全く違っていたという、自己の認識への不信と、その意味不明の言葉そのものの気味悪さ。
 例えば、玄関のインターフォンを連打しまくり、ドアをたたきまくるMIB。
 例えば、裏世界の夜にであうクリーチャー。


 ……劇的にではなく、気づいたらそこにある恐怖。
 読み手の心中へ心構えをしにくいままにぶつけてくるという感じで、表現が嫌になるぐらいに巧みでした。


 しかも困ったことに恐ろしいだけではありません、
 意味不明・理解不能なことに対するわくわくするワンダーもまた存分に満ちています。
 そして、彼女たちは怪異を見通す目と、怪異を掴む手を入手し、何が起きているか思考することで、恐怖として現われたものを彼女たちに対処できるものへと落とす手続きもワンダーを色褪せさせないまま、解体の興奮を感じさせてくれました。


 以上。ひっくるめると感情を翻弄される、読書の快楽を味わえました。続きも是非是非期待したいところ。

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